最近私のもとに届く支援依頼は2種類に大別できる。ひとつは地域共生時代にマッチした次世代型福祉事業の構築。もうひとつは事業再建や業績改善。
一見、両極端にある2つだが、実は事業戦略支援の専門家として、やるべき事はほぼ同じである。
福祉事業は来たるべき2040年に向けて、50年に1度の大転換時代に差し掛かっていると私は考えている。将来を見据え、今後20年でいかに地域オンリーワンの事業を展開していけるか?
今こそ近未来に向けた種を蒔き、芽を出させ、育てるべき転換点だ。
コロナ禍で傷んだ介護福祉事業経営
介護事業の経営環境は、3年ごとの報酬改定のたびに平均収支差率が低下し、厳しさを増してきた。また人材獲得経費など人材関連経費の増加、給食費、水光熱、消耗品など事業費の増加など、運営コストも年々上昇してきた。
そんな最中、今回のコロナショックによって、通所系・訪問系の事業は、利用控や新規顧客獲得難によって苦戦している。また特養などの入居施設は、統計上は大きな影響がないように見えるが、現場体感では新規獲得に苦労しており、稼働率低下を招いている事業所も多い。
現在はコロナ融資制度によって運転資金を調達できてきた法人も、今後借入金の返済開始が迫っており、早期の業績回復が必須となってくる。これらの現状から考えると、今後は経営に窮する事業所が増加するものと思って間違いない。
優勝劣敗の2極分化へ
介護事業は今後、専門性の深化、エビデンスあるサービス内容、効果を出す取り組みが必須であり、そのためには人的にも設備機器面でも、より専門特化していく必要がある。
そのためには先行投資が必要であるが、現在のコロナ禍で傷んだ経営状況では、そこに十分な資金投下をできない法人も多い。また先般の新聞報道では、ICTやAIの導入によって作業を効率化し、人員配置基準の緩和を検討すると出た。
世論の反応を見るための情報リークではあるが、もしこれが現実となれば、機器への投資が可能な勝ち組法人は人件費が効率化し益々経営状況が良くなる。そして作業が効率化した職場には、職員も集まり始める。逆についていけない法人は、どうなるのやら。
今後益々、法人間での優勝劣敗が加速していくことは、間違いなさそうだ。
2040年に向けた動向
では今後の介護福祉業界はずっと、今現在の経営環境の良い法人が益々大きくなり、そうでないところは先細りなのか?というと、全くそうではない。むしろ今後、組織が大きくなりすぎ、時代の変化に対応できず硬直化した法人こそが先細りになる。逆に、しなやかに変化対応できる柔軟な組織にとっては、とても大きなチャンスが目の前に現れていると言える。
私は現在こそが、福祉業界にとって50年に1度の大転換点に向かっていると感じている。この変化を敏感に捉え、取り組んでいくことで、10〜20年後には地域でオンリーワンの存在感のある法人へと飛躍することができるはずだ。
全ての介護事業は共生化しかない
2040年に向けて、ほぼ確実と言えるのは介護と障がい福祉の制度統一。介護保険は20歳以上の皆保険制度として「公的福祉保険」化し、障がい福祉事業も合併される。
そうなれば介護と障がい福祉の年齢区分がなくなる訳だから、全ての介護保険事業は共生化されることになる。近い将来「昔は65歳以上だけのサービスを介護と呼んでいたらしい」なんて言われる時代になるのだ。
医療事業者にとっても、介護事業者でも、なぜか障がい福祉事業への参入に二の足を踏むことが多い。それは、障がいに対しての知識や経験の不足が原因になっている。
ただこれは、自社の現在サービスに近い対象者から、緩やかに障がい福祉に参入する事で、乗り越えることができる。数年前まで介護施設が看取りに二の足を踏んだ時と同じ。学んでいない、経験していない事には慎重になるが、やってみれば対応できるだけの専門性を介護従事者は身につけていけるものだ。
共生化事業創出の最前線
地方では現在、老健だけでなく特養にも空床が出始めている。もうすでに、介護施設は過剰になり始めているのだ。それに加え、一部の大都市を除いた多くの地方では今後20年間に人口が20〜30%減少する。当然10〜20%の介護施設が不要になるはずだ。
20年後2040年という近未来、自社はどのような発展を遂げることができているだろうか?そこに危機感を感じ、チャンスを見出している一部の法人は、今もう動き始めている。既存の介護事業に障がい事業を組み合わせ、次世代型のサービスへと転換を進めているのだ。
取り組み始めて驚くのは、重度や医療ニーズの高い障がい者へのサービスが、まだまだ未整備であるという事。家族の献身的なケアによって、かろうじて支えられているという現実だ。そして重度障がい者向けサービスは、非常にサービス単価が高い事も、知ることになる。
ただ、このような障がい者は人数が少ないため、介護保険サービスと比べると利用者獲得に時間を要する事も事実。しっかりと計画的に事業を構築していく必要がある。
また気をつけておくべきことが1点。それは現在爆発的に増加している軽度の障がい者に対しての各種サービスの今後について。これは近い将来、介護保険の要支援者と同じように、生活支援が切り下げられ、就労支援に重点が置かれるようになる。軽度者への生活支援サービスは、将来の出口戦略を見据えた展開が必須である。安易に参入するべきではない。
既存事業価値の最大化へ
転換点だと分かっていても、今の厳しい経営環境から、どう切り開いて良いかわからない場合も多いと思う。その答えは明確で、まずは既存事業所の価値最大化に取り組むことだ。
既存の介護事業所は競合が増え、サービス単価も下がったことで右肩下がりだと諦めてはいないだろうか?私の経験上、既存事業所の価値を再度向上させる方策は、必ず存在する。
介護事業は制度ビジネス。経営の命綱と言える「値決め」ができないことが最大の弱点であるが、報酬構造はロジックであり、収益を増やす対策ポイントが必ず存在することが最大の強みと言える。
正しい方向に分析をし、対策を立てることができれば、あとは実行できるかどうか?愚直に正しい対策を実行し続けることができれば、必ず結果が出ると断言できる。
地域オンリーワン法人への道
障がい福祉事業は、対象者が少なく当事者家族の横の繋がりが強い。その分、信頼関係を築いた法人は長期間にわたって利用し続けることになる。
親亡き後の障がい者の将来を案ずる家族の不安を思えば、介護と障がいの事業を行う法人は、とても安心できるはずだ。また医療対応ニーズのある人にとっては、医療法人のサービス利用はこの上なく心強い。
地域の中で競合他社に先駆けて、真剣に障がい福祉事業に取り組み、信頼を勝ち得ることができれば、今後数十年にわたって、地域オンリーワン法人として、その存在が注目されることになる。
今私たちは、そういう大きな時代の転換点に立っているのだ。
まとめ
全地域住民の中で要介護認定者は約5%、要介護3以上の中重度者は1.7%だ。介護事業者にとって、それが地域の中での事業領域だったと言える。今後は地域の福祉ニーズに幅広く対応するワンストップのサービス網を構築すると、アクティブな高齢者、障がい者、経済困窮者など、地域住民の30〜50%がサービス対象者になる。自社の事業領域が格段に大きくなることは間違いない。
2040年に向け、地域包括支援センターさえもその存在が不確実視されるような大転換を迎えようとしている。既存事業の概念にとらわれず、柔軟な発想で将来を見据え、変化対応していきたいものである。