自立支援介護における4つの基本的なケア

自立支援介護が注目されています。高齢者になっても自立して生活したいと考える人は多いでしょう。

介護の現場でも自分でできることを応援する自立支援介護の考え方が注目されています。

自立支援介護は、自分自身の介護について心配な方や高齢者のいる家庭、そして介護サービスを提供する介護福祉事業者にとって今後更に重要度が増していく考え方です。

そこで今回は自立支援介護の概要と自立支援介護における4つの基本的なケアを紹介しましょう。

自立支援介護とは?

自立支援介護とは、高齢者が日常動作(ADL)を再び自分でできるように身体的な自立を応援していくという介護の考え方です。

日常動作(ADL)とは、英語のActivities of Daily Livingの頭文字をとっています。

Activities:動作

Daily Living:日常生活

具体的には、以下の動作があげられます。

・起居動作:寝返り、起きあがり、ベッド上の移動、座位、立ち上がり

・移乗動作:便器、車いす等への乗降り

・移動動作:歩行

・食事

・更衣

・排泄

・入浴

・整容:歯磨き・洗顔・整髪・爪切り・髭剃りなどの身だしなみ

自立支援介護では、単に日常動作(ADL)をサポートするのではなく、再び自分でできるように身体的な自立を目的として応援していく取り組みが実施されるわけです。

自立支援介護によって、高齢者が日常動作(ADL)を再び自分でできるようになれば、高齢者の生活の質が高まり、買い物や調理などの生活関連動作ができることも期待できます。

自立支援介護における4つの基本的ケア

自分自身の介護について心配な方や高齢者のいる家庭、そして介護サービスを提供する介護福祉事業者にとって、どのように自立支援介護ケアを実行すべきなのかという点は大きな課題です。

この章では基本的な4つのケアを紹介します。

水分ケア

介護ケアで最も基本となるのが水分ケアです。

水は、人間の体の大きな割合を占めており、年齢が高くなるほどその割合は減っていきます。

新生児の時点では約75%を占めていた水も、成人で60~65%、高齢者になると50~55%に減少します。

高齢者の水分が少ないのは、年齢とともに、筋肉が衰え、細胞内の水分が減っていくためです。

 

水を飲むことで水分は体液となって体を循環して、酸素や栄養分を運び、老廃物を排出します。また、汗となって体温を保ちます。

 

水分は尿や便、汗、呼気などで1日2,000~2,500ml失われるといわれています。

最適な水分を体内に維持するためには、食事などでとれる水分のほか、1,500ml以上の水分補給が必要であるといわれています。

 

介護福祉事業者のなかには、以下のようなアイデアで1,500mlの水分摂取に取組んでいる事例があります。

・飲み物の種類を増やす(煎茶、番茶、昆布茶、紅茶、コーヒー、ココア、牛乳、スポーツドリンクなど)

・温かい飲み物と冷たい飲み物を用意する

・水分を含んだゼリーなどを用意する

・起床、朝食前、朝食時、服薬時、10時など、こまめに水分補給を行う

食事

人間は日常動作(ADL)に必要な栄養を食事から取っています。

高齢者には、筋力や筋肉量の減少、基礎代謝の低下、消費エネルギーの低下、食欲の低下などによって、食事摂取量自体が減少する傾向がみられます。

 

食事摂取量が減少するとその結果、体重が減少し低栄養を引き起こしてしまいます。

低栄養によって、筋力や筋肉量の低下が更に高まります。また、免疫力が低下します。

 

自立支援介護ケアの視点で考えると、高齢者の食事は単に食べやすさを追求するのではなく、「咀しゃく」についても考慮する必要があります。

料理を咀しゃくによって、噛み切り、すりつぶし、嚥下することは、食べるための基本的な機能であり、食べることの楽しさにつながります。

また、咀しゃくには舌の筋力と適切な唾液量が必要ですが、長期間咀しゃくを行わないとそれらの機能が低下する恐れがあります。

 

自分自身の介護について心配な方や高齢者のいる家庭では、咀しゃくを念頭に歯の状態をチェックするとよいでしょう。

食べることの楽しさを継続するためにも適切な歯の治療を計画的にすすめていくようにします。

 

介護福祉事業者では、食べる機能や体調に合わせて、一般食、一口大、荒きざみ、きざみ、ペースト、ムース状、ゼリー状の食事がなど提供されています。

食事については各事業者によって違いがあるので確認が必要です。

排便・排尿

排便・排尿は、日常生活を送るうえで必要であり、自分でできない状況は社会参加の機会を減少させます。

排便・排尿が自分でできない要因には、歩行やトイレに座るなどの運動機能の低下や排便・排尿のための内臓機能の低下、認知機能の低下などが考えられます。

 

排便・排尿を自立支援介護ケアの視点から考えると、排便・排尿のみではなく排便・排尿をするための一連の行動についての確認が必要でしょう。

・便意・尿意を感じているか

・トイレまで自分で移動できるか

・トイレや便器が認識できるか

・下着を下せるか

・便器に上手に座れるか

・排尿・排便ができるか

・後始末ができるか

・衣服を着られるか

・部屋に戻れるか

排便・排尿ケアは、在宅でも介護福祉事業施設でも、実施されるケアですが、要介護者にとってはプライベートな領域です。

自立支援介護によって排便・排尿が改善されれば、要介護者がひとつプライベートな領域を取り戻すことにつながります。

運動

日常動作(ADL)を行うためには運動が必要であり、基本となるのが歩行です。

自立支援介護ケアでは歩行が重要とされています。

 

ここでは自立支援介護ケアで歩行に取組んだ2つの事例を紹介しましょう。

 

事例1

要介護度が高い方を歩行させるとなると、サポートのために介護者の負担が増えてしまうことから、歩行ケアが疎かになっているケースがみられました。

 

自立支援介護の考え方を取り入れ、日常生活の中で歩行する場面(トイレ・食堂に行く)を決めて、継続的に歩行に向けてケアしていく以下の取り組みを計画・実行しました。

・椅子に座って5~10秒座位を保持

・5秒のつかまり立ち

・2人に介助してもらいながら歩行

・1人に介助してもらいながら歩行

・サークル型歩行器で歩行

・シルバーカーを使い歩行

・杖を使い歩行

・自力で歩行

 

事例2

高齢者が歩行困難になる理由には、筋力や筋肉量の減少などによる運動能力の低下が大きな要因です。

一方で、高齢者の中には、怪我や病気で長期間入院したことで、歩き方自体を忘れてしまったという方も少なくはありません。

脳が歩き方を忘れてしまっているケースでは、再び脳が歩き方を思い出すことで再度歩行が可能となります。

高齢という理由でそのまま歩く機会を失ってしまわないためにも、自立支援介護の考え方を取り入れ、自分でできることを応援する以下の運動ケアを実施しています。

 

・歩く機会を設定する

・歩行器や2人に介助してもらいながら歩行

・脳が歩き方を忘れないように繰り返し練習する

・練習量(歩く回数・距離)を増やす

 

自立支援介護ケアで運動を行うことで、水分が欲しくなり食事が欲しくなるため、水分ケアや食事の促進につながります。

また、適度な運動は規則正しい排便にも効果が期待できます。

つまり、運動は自立支援介護における4つの基本的なケアを円滑に実行していくための潤滑油の役割も果たしているといえるのではないでしょうか。

まとめ

自立支援介護にあたっては水・食事・排便・運動が4つの基本的なケアといわれています。

基本的なケアを自分でできるように応援することが重要です。

 

それぞれの高齢者によって課題となる個別のケアがある場合でも、水・食事・排便・運動という基本的なケアは疎かにせず、計画的に実施していきましょう。

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