川畑誠志の介護・障害経営戦略⑫
~地域共生型事業実現のリアルな現場〜

介護保険事業経営の現場では、将来に向けての閉塞感を感じる場面に出くわす。また障がい福祉事業経営の現場から見ると、サービスの激増に警戒感を持っている。

しかし利用者目線で見ると、介護も障がいも、利用者ニーズを満たされていない。私達事業者は、地域のニーズを受け止められていないことが多いのが実態だ。地域の中には隠れたニーズがあり、当事者は今なお、家族支援によって持ちこたえているケースが多数存在している。

今こそ顧客視点に立ち返り、地域オンリーワンのサービスを構築する時だ。地域共生型事業は、今後の大きな可能性を秘めていることを、改めてクローズアップしたい。

その課題に取り組むことで、私たち福祉事業者の未来の可能性が大きく切り拓けると、私は強く信じている。

全国どこでも介護施設は余剰

近年は入居施設の過剰供給が顕著になっている。直近の全国統計を計算すると、完成済みの入居施設の床数に対して、要介護3〜5の人数は約60%。理論的には、全国の入居施設の40%は空床もしくは軽度者の利用ということになる。

弊社がご支援実施中の地域を調べると、大阪、名古屋、埼玉など、大都市圏でも特養の空床が出ている。地方では何年も前から同様の状態だ。高齢者向け住宅では、都道府県内の平均利用率が80%を超える地域は3県だけというデータもある。

今現在すでに、多くの介護施設が過剰に整備されているのが、全国統計から見える実態だ。

ニーズを満たせない介護事業のリアル

一部の大都市中心部を除き、ほとんどの地域では今後20年で人口が20〜30%減少する。人口が減りながら高齢化率が上昇する。実際の要介護者数は過去の地域福祉計画で予測された将来推計よりも少ない。にも関わらず、施設整備は計画を上回るペースで進む。

しかもサービスの数は増えても、地域住民のニーズは今なお満たせず、お困りの方がいらっしゃる。個別具体的な支援ニーズに合うサービスが無い、もしくは出会えていない状態だ。

今後ますますボリュームゾーンでの競合は消耗戦となり、専門的で柔軟なサービス提供体制へと進化を求められる。専門性を深めながら、年齢区分に関係なく幅広い年齢層を受け入れる、共生型サービスへの進化が不可避の状況と言える。

障がい福祉サービス激増のリアル

障がい福祉サービスはご存知の通り、軽度の知的障がい、発達障がい者向けのサービスを中心に激増期を迎えている。Web上では新規開業を勧める情報が溢れ、不動産業など異業種からの参入が相次いでいる。

その一方で、重度障がい者向けのサービスは減少傾向に入っている。重複障がい者や医療的ケアを要する障がい者が減っているわけではないので、支援困難な状況が多くなってきている。

今後の政策動向を展望すると、軽度者向けサービスは生活支援に要する費用をカットし、就労支援に特化していく。施設基準や人員配置基準も厳格化の方向だ。軽度者向けサービスを展開する事業者にとっては、その政策動向を見越した事業計画が欠かせない。私個人としては、軽度者向けサービス整備は慎重に進めるべきだと強く感じている。

重度障がい者の支援ニーズは?

重障心身障がい者やそのご家族は、今現在も十分な支援を受けることが難しく、家族や身近な人の負担が非常に大きい。当事者に適したサービスを地元で受けることが難しい場合も多く、不自由を強いられている。ご本人だけでなく、ご家族ご親族にとっても、当たり前の社会生活を継続することが困難になる場合もある。

単に障害の専門的理解やケアの専門性を求めるだけでなく、日中一時預かりや訪問介護、ショートステイなど、家族が安心でき休息できる時間を作りたいというニーズも非常に強い。家族がトイレに入る時間すらも不安で、目が話せないという心境になっている場合もある。

こういった地域内にあるニーズを敏感にキャッチし、事業に反映することが、今後の新時代を切り拓く大きなヒントになるのである。

障がい福祉事業の入口は?

障がい福祉事業への参入は、全ての介護事業者にとって必須だが、どこから始めて良いかわからない。当然ながらスタッフの不安も大きい。障がい福祉事業へ参入しようとしても、すぐに理解を得られない場合の方が多い。

異業種への参入と捉えるのではなく、既存事業の延長線上で共生化できる事業から順に、年齢区分をなくしていくイメージでスタートするのが、最もスムーズだ。共生化が必須である事を理解しながら、やれる事やらやっていく姿勢が重要だ。

地域共生型事業モデル①

いま現在進行形でご支援中の事例を紹介する。最初は関西地方。

住宅型施設、通所介護、訪問介護、訪問看護などを複数運営中。居室の空室が埋まらず苦戦中。障害者の入居が可能な体制を作り入居促進。訪問介護は共生化し障がい者向けサービスに対応。

同時に現在の入居者様の中で、障害者手帳保持者や取得可能な人が行って数いることを確認。障がい福祉サービスを活用して心身機能の維持向上を目指しながら、介護保険で生活支援を強化する方向で調整中。

今後は、施設の近隣住民にもサービス提供できるよう、体制の整備を勧めることになっている。

地域共生型事業モデル②

東北地方では、コロナ禍で閉館したホテルを買い取り、医療、介護、障がいの複合拠点を開設。また関東地方では、大規模施設が移転した跡の建物を活用し、同様の複合拠点を開設。

両拠点とも、年齢に関係なく地元地域で生活支援ニーズを持つ住民に対して、通い、訪問、通所、治療のサービスを複合的に提供。利用者様の利便性を最大限に高める。と同時に事業としての相乗効果も生み出し、非常に効率の良い事業運営が可能になっている。

地域共生型事業モデル③

中国地方では、小規模な複数の事業を連動させた事業モデルを構築しようとしている。介護と障がい、それぞれの住まい、通い、訪問、相談支援が連動することで、年齢区分や時間帯に関係なく、一体的な生活支援を可能にする構想。

具体的には、訪問介護、訪問看護、共生型通所介護、住宅型有料、グループホーム、ショートステイ、居宅介護支援、相談支援、訪問診療、薬剤管理などのサービスをミックスしながら、個別ニーズに合わせたサービスミックスを検討し、進めていく。

このモデルは比較的導入しやすく、さまざまな形を想定できる。利用者様にとっても、事業者にとっても、非常に有効なモデルであると感じている。

まとめ

2040年に向けて、介護保険制度と障がい者支援制度は、融合していくことが確実視されている。厚労省内部ではすでに、部署横断的な検討が進み、地域包括と期間相談支援の融合など、大胆で制度横断的な検討が進められている。変革が間近に迫っていることを実感する。

また日本全体で人口が減少に転じ、既存の福祉的社会資源の施設過剰が顕在化してくるタイミングに入ったと言える。

このような社会情勢の中であっても、私たち福祉事業経営者は健全な経営体質を維持しながら、社会資源としての事業所を継続・発展させていかなければならない。

そのために必須の取り組みが「事業の共生化」であることは明白だ。高齢者に特化したサービス提供から発展し、地域で生活支援ニーズを持つ幅広い住民に対して、ワンストップで相談と支援のサービスを提供することが、社会保険事業者としての私たちの役割であると言える。

コロナ禍にあっても、私たちはエッセンシャルワーカーとして尊敬を受け、その社会的役割を期待されている。経営環境の厳しさは今後も継続するが、それは全事業者共通であり公平だ。

今この大変革期をどのように捉え、将来をどう描き、そのために何を取り組むか?経営者としての私たちの役割は、その方向性を示して具体策を定め、行動を開始することである。

今こそ進化の時、今こそ行動の時なのだと感じている。

日本福祉大学社会福祉学部卒業。社会福祉士。 20代から飲食チェーンの会社に勤務。35歳を機に福祉事業での起業を目指して、介護の現場に従事。新規社会福祉法人の設立に参画し理事に就任。特別養護老人ホームなど5事業所の統括施設長として新規開設に携わる。地域で頑張る小さな介護事業所を支えたいとの思いから独立開業。福祉事業コンサルとして、支援を続けている。 http://kurashi-lab.co.jp/

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