前号ではコロナ禍で介護障がい福祉事業経営への影響を書いた。今この執筆段階でコロナは驚くほどの収束状態になり、社会経済活動が活発化している。
そこで今回は、今だからこそ私たち介護障がい福祉事業者がやるべきことを、収益改善の視点から書き進めていく。
コロナと要介護申請者数の相関
別表はコロナ感染の拡大と要介護認定申請者数の推移を表している。2020年のデータではあるが傾向は明らかだ。感染拡大期には申請が減り、収束段階はその反動で増加になる。
現在もこの傾向は同じであると考えて良い。特に直近では感染拡大の波が大きく、逆に現在は極端な減少状況にある。そのため本年10月以降では、申請者数が大きく増加しているであろうと推測できる。
年末年始に起きること
この年末年始は、故郷への帰省客が大幅に増える。多くの人が2年ぶりに故郷に帰り、親の現在の生活を目の当たりにする。
普段以上に久しぶりの再会であるからこそ、親の様子の変化が気になる場合が多いだろうと想像される。当然のこととして、お正月明けは要介護認定申請や介護サービスの利用相談が大幅に増えるのは間違いない。
私たち介護事業運営者は、そのニーズ増大に向けた準備を万全に整え、より多くの利用者様のご要望に応えていかなければならない。言い方を変えれば、収益改善の大きなチャンスであると言える。
今やるべきことは何か?
コロナ禍では、特に通所系サービスは利用者減少の影響が強く出た。新規利用者の獲得に非常に苦労しながら、既存利用者の利用控えにも対応が必要で、事業の維持継続のために努力をしてきた。そして今、一つの大きなチャンスのタイミングを迎えている。
今後もコロナ拡大と収束の波が繰り返されていくであろうことを想像すると、この冬の利用者獲得の結果は、半年以上先まで影響が及ぶことになる。今回のタイミングを生かせるかどうかは非常に重要だ。
現場の運営状況やサービス質を確認しながら、現場を巻き込み、事業所全体で取り組み、今こそ利用者獲得の動きを強力に推進したい。
まずは種まきから
新規利用者をご紹介いただくために今やるべき重点事項は、関係機関へのあいさつ回りだ。新たな連携先の開拓だけでなく、既存の関係先も丁寧に訪問したい。その理由は、新規の利用相談が関係機関に寄せられた時、どこのサービス利用を紹介するか?と考えれば、最近訪問を受けて直接近況を聞いた事業所は情報が新鮮で、安心感があるはずだからである。
競合他社も訪問営業をやっているのではと感じるかもしれないが、今現在は関係先訪問を自粛している事業者が多くあり、ケアマネ事務所へ訪問営業を丁寧に繰り返している事業所は、驚くほど少ないのが実態だ。だからこそ、今やることに価値があるわけだ。
結果を作る訪問内容
包括や居宅への訪問営業をする際、何を伝えれば良いのだろうか?
当然だが「利用者紹介してください!」と言って頭を下げ、お願いして回っても、紹介は得られない。自分本位なお願いだけをしても、相手が協力しようと思わないのは当たり前である。またそれ以上に、「クレクレ営業」を繰り返すとスタッフが精神的に疲弊する。前向きに取り組めないことは、長続きをしないだろう。
大切なことは、いかに訪問先のお役に立てるかを考えることだ。「長くご挨拶できていなかっとので近況報告にまいりました」「うちの現状やコロナ対応についてご説明にきました」相手に有用な情報を提供することで、相手の協力を得ることができるのである。
またコロナに対応したリモート相談や見学など、顧客ニーズに対応した新たな取り組みも、しっかりと伝えたい。
クロージング意識があるか?
利用紹介を得るには多くの労力を要する。頑張って紹介を得た後、施設見学などを経て、契約に至る確率はどれくらいだろうか?実はこの成約率が、事業所によって大きく異なる。見学者の大多数と契約に至る事業所がある一方、成約率が半分以下の事業所も数多い。この差はどこから生まれるのだろうか?
1つは見学対応をどれだけ準備し、良い対応ができているか?自社サービスの魅力をどれだけ見せられ、伝えられているか?
もう1つは見学の最後にクロージングをできているかどうか?利用いただけるかどうかの判断をお願いできているかどうかだ。きっちりとクロージングできている事業所は、どこも成約率が高い。いかにそれを意識し、質の高いクロージングができるか?それは事業所の業績に直接的に大きな影響を与える。
「他の事業所も見てから決めてください」は公正中立な対応のように見えるが、実はサービス事業者としては無責任な対応だと私は考える。見学に来た人に魅力を伝え、どうお役に立てるかを明確にし、利用して欲しいと促す。それが当たり前の責任ある対応だ。公正中立な関わりは、ケアマネジャーの役割である。
それでも、その場で決まらない事も当然多い。その場合、連絡を待つのではなく、いつ連絡を入れるかを決めておくべきだ。必ず次に自分でアクションを起こせる見通しを立てて終わらななければならない。
継続的に利用者紹介を得るには
地域包括や居宅から紹介を得るには、いくつかの要素がある。荒っぽく言うと①人間的信頼関係がある②サービス内容が適している③立地地域が適している、など。そして全ての要素に共通する事として、自事業所サービスを良心的に理解してもらえていることが必要だ。
ケアマネジャーにとっては、自身の大切な利用者を紹介するわけだから、信頼できる事業者を紹介したいと考えるのが当然。逆に言うと、訪問営業を受けて話を聞いただけの事業所を、すぐに紹介できるかと言うと、それは難しいだろう。
であるならば、実際に自社のサービスを見て納得してもらうことができれば、「紹介してくれる」と言う行動に変わるはずだ。だからこそ、コロナ収束のタイミングをうまく活用し、事業所に来てもらう取り組みをすることが、非常に重要である。
コロナ対応姿勢を見られている
それともう一つ、コロナ禍において業績を大きく左右する要素として、事業所のコロナ対応の姿勢がある。関係機関だけでなく、利用者のご家族もそこを非常に注視している。
コロナ対応に正解はないが、事業所の姿勢は明確にしておく必要がある。感染防止最優先で、面会や利用者の活動制限をやむなしと考えるのか?その逆に最大限の解放を目指すのか?またはそれらのバランス重視か?
そして対応内容は、社会情勢に合わせて、タイムリーに柔軟に変更していかなければならない。
どの方向性であっても、支持を受けることもあれば非難されることもあり得る。ただ確かなことは、コロナ対応の姿勢が、事業所選定の大きな要素になっていて、業績を大きく左右するという事実だ。
まとめ
私たちは2年以上に及ぶコロナ禍で様々な影響を受けながら、試行錯誤を繰り返してきた。いま確かに言えることは、2年に前には戻れないという事実。苦しい中にあっても現状をありのままに捉え、前向きにどう対応していくかを考え続ける以外に、解決策はない。
私たちは今まで以上に、柔軟な変化対応力を問われると同時に、本当の意味で顧客視点でのサービス提供を求められるようになったのである。その環境変化に気づき、しなやかな状況対応をできる体制に進化できるかどうかを、いま問われている。
よく考えてみれば、施策動向に合わせて進化し続けることが宿命である私たち介護障がい福祉事業者は、元来から高度に変化対応力を求められる業種であるわけだから、今こそその真価を問われているのである。