私たち介護・障害福祉事業における経営環境は、コロナ禍において大きく変化した。この変化は一時的な影響だけでなく、今後も続く構造的な変化と見るべきである。
コロナの終息を待つだけでは、以前の業績に戻すことは難しく、より積極的に変化対応をし、進化しなければならない。
現にこの約2年間、自社が行ってきたコロナ対応の姿勢は、顧客に評価され、新規顧客獲得などの面で、施設間の業績格差を生み始めている。
今回は厚生労働白書と福祉医療機構による実態調査を紐解きながら、現状と将来展望を見ていく。
経済活動への影響
2020〜21年において、経済活動は非常に大きな影響を受けてきた。GDP成長率は四半期換算ベースで最悪期は▲28.6%を記録。今年に入って持ち直し傾向にあるが、コロナ前の水準には遠く及ばない。
家計における消費支出額は、一時的に1割近く減少した。リーマンショック時が2%の減少だったことに比べ、いかに急激で大幅な経済変動が起きたかわかる。
都市部を中心に、店舗や事務所の空室が増え、街の風景の変化に驚かされることが非常に多い印象である。
雇用環境の変化
2020年度中、有効求人倍率は全産業平均で約1.6倍から1倍に低下した。特徴的なのは、男性以上に女性の雇用環境の悪化、非正規雇用の環境悪化であった。
雇用調整による休業者数は、最悪期で約420万人。そのうち250万人が女性。非正規雇用者の給与額は5%近く減少。所定外給与は30%以上も減少した。
雇用や収入に関わる影響調査では、「労働時間の減少」と答えた人が50%以上、「収入の減少」は驚きの65.8%であった。日本全体の3人に2人が収入減少に悩んできたことになる。
雇用調整助成金の支給額は月額230億円を超え、リーマン時の約10倍に至った。
福祉業界の雇用環境変化
介護・障がい福祉の事業領域で、雇用環境はどう変化したか?現時点で大規模な調査報告は見当たらない。リーマンショック時、他産業から約40万人が流入したが、コロナ禍ではそこには至っていないと感じる。
大きな違いは何か?ひとつは自己抑制。リーマン時の流入人材のうち、7割が仕事に馴染めず短期間で退職したという失敗経験が、私たち業界内にあったことで、未経験者採用の動きが広がらなかったと感じる。
また根本的な違いは、リーマンは正規職員の雇用が失われ、コロナは非正規が中心だったこと。その違いに敏感に気付き、採用戦略を練ることが人材戦略の最重要ポイントであった。
人材採用成功のポイント
私の関与先様を拝見している肌感覚では、取り組み方次第で、人材確保に成功する事例が増えてきた印象がある。
前記の通り、今は非正規職員の採用にチャンスがある。未経験であっても、特にサービス業など対人サービスに強い人材を獲得できる好機が続いてきた。
ただ、正規職員を欲しい気持ちが優先し、非正規の採用を絞る傾向が多く見られた。しかし成功している施設は、非常勤の働き方を見直している。
今現在はサービス業の雇用ニーズが急増し始めているのだから、スピーディな対策実行が必要だ。
非常勤職員の働き方改革
例えば子育て中の女性。日中の短時間に、訪問介護の生活支援サービスを集中的組み、実施してもらう。子育てとの両立が可能になり、採用が大幅に増えた。そのぶん常勤職員は身体介護にじっくり関わり、サービスの質を上げたり、役職者業務を行う時間を作ることもできる。
夜勤専従はダブルワーク可能な時間設定に変更することで、大幅に採用が増えている。
また私は「週末専従」という働き方での採用を推奨した。土日祝日数の半分程度の日数で8時間勤務していただく。福祉業界からサービス業へ転職した人が、今収入減少でお困りだから、週末だけ介護の仕事に戻ってもらおうという取り組みだ。
夜勤専従と週末専従を活用すると、常勤職員の勤務シフトは平日日中が多くなる。これで働き方環境が大きく改善する。
これまで非常勤職員は日中短時間がメインだった。人件費を抑制できる反面、常勤職員の勤務負担が増す悪循環に陥る場合が多かった。だが今は工夫次第で、より良い働き方を作ることができるのである。
介護通所系一人負けの経営実態
コロナ禍における介護事業経営実態は、変化無しが3割強、業績向上が4割、業績不振が2割強となっている。
この業績格差の原因は大きく2点。その1つが業態間での業績格差だ。特養は若干の収益減がありながら、ほぼ前年並みを維持。そんな中、通所介護は大幅な減収になっている。特に大規模デイは4%を超える減収だ。
規模別では大きいほど減収幅が大きい。地域別では大都市圏ほど大幅減少。北海道や沖縄など感染拡大地域も大幅減少だ。その理由は容易に想像がつく通り、対人接触の回避である。
通所系事業所の中には、存亡の危機を迎えている事業所が少なくない。私の関与先様には、感染拡大が収束している今こそ、10月〜12月に新規利用者獲得のための努力を集中的に実施していただいている。次に感染再拡大するまでの期間に、いかに利用者様を確保できるかで、来年の春、半年先までの業績が決まる訳なのだから、今こそ頑張り時だ。
その逆の現象として、訪問系事業は増収になっている。サービス内容を通所から訪問に振り替えている実態が見えてくる。訪問系事業者が今やるべきことは、現在顧客のサービス内容再点検だ。通所を控えている利用者様に対して、必要な訪問サービスを追加できているだろうか?サービス量の増加に対応するには人材の確保が不可欠な訳だから、前述の人材対策が必要になる。
障がい福祉事業経営の実態
障がい福祉事業は、コロナ禍においても比較的堅調に推移し、大きな影響は見られていない。生活介護や就労支援など通所系事業においても大幅な収益減少といった傾向は見られない。逆に収益向上傾向が維持していると判断できる。
障がい福祉サービス利用者様は、生活リズムの変化によって生活質に影響が大きい場合が多いので、通所利用を継続しているものと考えられる。また日中常時の見守りが必要など、訪問系サービスだけでは支えきれない現実もある。
ただ収支差額の傾向を見ると、人件費やコロナ対策諸経費の増加傾向が出ており、収益率は低下傾向が続いている。
まとめ
今回は、コロナ禍における経営環境の変化を概観した。経験がないほど突然で急激な社会変化の中で過ごした2年間であった。
今振り返ると、私たちの変化対応力が問われ、今後もその影響が続いていくと考えられる。
上記で業績格差の原因は2点と書いた。1点は業態間格差だが、もう1点はコロナ禍における自施設の顧客対応姿勢に対する利用者評価だ。利用者様やご家族はもちろん、関係機関や地域住民は、自施設のコロナ対応がどのような内容であったかを注視している。
そして、私たちが顧客視点で対応策を練り、努力してきたかどうかが、そのまま施設のサービス質の評価となり、利用するかどうかの重要な判断材料になっている。
私たちは当然ながら、顧客と職員の命を守ることを最優先にしながらも、生活の質を高める努力を犠牲にすることができない。そのバランスをいかに保つか?その工夫と努力を重ねている姿勢が見えるかどうか?
それが今後のサービス評価と業績を大きく左右する重要な指標になっていることを、忘れることはできない。