川畑誠志の介護・障害経営戦略⑧
~日本初、福祉事業再建支援専門家チーム創設の意味~

介護・福祉事業では、経営環境の悪化傾向が続いている事は周知の通り。様々な要因が重なっているが、その専門的分析は進んでいない。またその対策も、体系的な手法は示されていないのが現状だ。

いま私が中心となり、法務、財務、事業実務など様々な専門家がチームを作り、福祉分野に特化した再建支援チームを組成する準備を進めている。その一部をご紹介し、今後の福祉業界がより良く健全な経営環境になる道筋を見通したい。

介護福祉業界の経営実態は?

誰もが感じている通り、経営環境は年々厳しさを増している。外形的な数値結果で見ると、全国の社会福祉法人のうち赤字決算は約28%。介護事業中心の法人では約33%。赤字法人の割合は、直近5年間で7%以上増加した。

倒産件数も年々増加し、昨年は過去最高120件を超えた。ただしそれは氷山の一角で、休止・廃業の件数は500件を超えている。

さらに、この業界の資金借入残高全体に占めるリスク管理債権の比率は、H30年3.2%、R1年3.7%、R2年5.5%と急増中だ。国内全産業平均は1.1%、リーマンショック直後でも2.4%だったことを考えると、いかに高い割合であるかがわかる。もはや金融機関から見ると、非常に貸出リスクの高い業界になってしまっているのだ。

この原因は、下記に挙げる経営環境の悪化だけではない。福祉業界が法人経営・組織運営・人材育成の知見をさらに深め、経営品質を高める努力を続けていかなければならないと感じる。

経営環境悪化の原因は?

様々な要因が絡み合っているわけだが、簡単にまとめると、収益が伸びず、経費が増える悪循環に入っている。

収益の伸び悩みは、報酬単価の低下、サービス内容の進化への対応力不足、競合の増加などが原因。客数と客単価の両方が伸びない状況である。

経費の増加は、人件費単価、採用経費、消耗品単価など、あらゆる費用が上昇傾向だ。特に大きな割合を占める人件費関連の負担が膨らんでいる影響は大きい。

これらの状況をまとめ、セミナーでは「介護事業経営の三重苦」(人材確保難、顧客獲得難、収益確保難)と呼んでいる。

またコロナ禍における影響調査では、収益横ばい45%、増加33%、減少22%という結果が出ており、2極化が進んでいる。これは入居が強く、通所が弱いという業態間の格差である。またコロナ禍での顧客対応が利用者様に評価され、利用先選定に影響を与えている点は、今後の施設の収支動向に、非常に重大な影響を与えるポイントと言える。

再建支援専門家チームとは?

私が準備を進める福祉業界特化型の「再建支援専門家チーム」は、企業再建支援の各種専門家数百人が加盟する団体の中で組成される。メンバーは弁護士、公認会計士、税理士、中小企業診断士、経営支援コンサルなど。

支援専門家の中で、福祉事業への関心は高い。事業分析や現況評価が得意な人が多い。しかし再建策の具体化の段階では、業界に精通した専門家の関与があって初めて、実効性のある支援が可能になる。

現在は、金融機関や会計顧問からの依頼案件が多い。補助金を活用し、事業評価分析と再建計画を策定する。必要に応じて金融機関の協力も得ることを前提にする。

そうやって策定したプランをもとに、数年間にわたって実行支援を継続し、結果を残すための取り組みを進めていく。

福祉事業経営状況の特徴

福祉事業開設の特徴は、設備資金の投資額が非常に大きい場合が多い。顧客獲得よりも先に人員配置ありきのため、当初の運転資金借入額も大きい。価格決定権がなく、定員上限も定められるため、収益の上振れ要因が少ない。逆に顧客の体調の波があるため、下振れ要因が大きい。

元来ネガティブな要素が多い業界である。その上、過去の想定を超える経営環境の悪化が重なり、借入金額の大きさが経営状況を悪化させている法人が多く見られる状況だ。

なぜ金融機関からの依頼が多いのか?

多くの金融機関関係者との関わりの中で感じることは、福祉事業に対する事業性評価が、いま非常に低くなってしまっている。首都圏など大都市では、まだ貸出に積極的な傾向だが、特に地方においては新たな設備投資に対する評価は低い。

金融機関としては、多くの貸出先の状況を把握しているから、収益性が低下している事を感知している。そして、なぜそうなっているのか、首を傾げている。ニーズが増えているはずなのに、なぜ収益が悪化するのか、理由がわからないのである。

金融機関や各種顧問に対して、この点をレクチャーしたり、セミナーで話す人はほとんど居らず、私のところに依頼が来ている。その中で福祉業界独特の状況を知ることで「なるほどそうだったのか!」となるのである。

支援の流れと実績

支援の仕組みとしては、事業評価報告書や再建計画書の作成は、補助金を活用する。自社負担額は驚くほど低額で済む。関係金融機関との報告会やバンクミーティングを繰り返しながら、半年ほどで作成する。

その後は実行支援の段階に入るが、その期間は場合によって異なり0〜36ヶ月程度。

現在受任中の案件では、全ての法人において何らか業績改善の結果が出ている。2年間で既存特養だけで6500万円(+5%)の増収結果が出ている法人もある。

業績を上げるには、原因を正確に分析し、目標を明確にし、対策を具体化し、運営組織と役割を明確化し、権限を委譲し、実行できる体制を構築することが必要になる。

それを法人内部だけで実行するには困難な面が多く、外部の専門家の関与が欠かせないと感じる場面が多い。

福祉事業は保険事業であり、制度ビジネスである。事業再建を考えるには、制度設計や収益構造を熟知した専門家の存在が欠かせない。対策は将来動向まで見通して、非常にロジック的に考える必要がある。

しかも、その実行段階では、現場感覚のわかる支援者がいなければ、現場スタッフの協力を得ることが難しく、計画に沿った結果を得ることはできない。

介護福祉事業経営に必要な専門性

経営者幹部は、現場経験の豊富な人材が多い反面、事業経営について深く学んでいる人は少ない傾向にある。そのことが、資金計画の不安定さにつながっている例も多い。

また組織運営や人材育成の専門性を有する法人が少なく、それが現場の疲弊感につながり、人材の流出を招き、業界全体の不人気、人材不足という結果につながってきた側面もある。そしてそれが人材獲得経費の増大を招くなど、悪循環とも言える状況に至っている。

福祉業界全体の人材対策は、採用獲得ノウハウに力点を置かれがちだが、それは「出血しながら輸血している」状況であり、ゴールが見えない。

やはり、福祉業界全体で人材を確保でき、前向きにやりがいを感じて働ける業界になり、事業の収益性も安定的に確保できる状況に至るには、経営者幹部が専門性を身につけて、法人経営を進化させる以外に、道はないのではないかと感じている。

まとめ

いま私たち介護福祉事業の業界は、2040年の地域共生社会実現に向けて、非常に大きな時代の転換点を迎えている。そして足元の事業経営の環境は、非常に厳しい。

しかし課題に対しては必ず解決策があり、より良い状況を作ることができる。

既存事業の価値を再び最大化し、来るべき時代の転換点に向けた対策を打つことで、地域の中で幅広く福祉ニーズのある住民のお役に立ち、なくてはならない法人へと進化する。

今まさに、その方向へと歩みを進める時を迎えている。

川畑 誠志

日本福祉大学社会福祉学部卒業。社会福祉士。 20代から飲食チェーンの会社に勤務。35歳を機に福祉事業での起業を目指して、介護の現場に従事。新規社会福祉法人の設立に参画し理事に就任。特別養護老人ホームなど5事業所の統括施設長として新規開設に携わる。地域で頑張る小さな介護事業所を支えたいとの思いから独立開業。福祉事業コンサルとして、支援を続けている。 http://kurashi-lab.co.jp/

川畑 誠志の最新記事

人気のコラム