日本における介護人材不足の背景と今後の取り組みについて

介護人材不足は、急速に高齢化が進んでいる日本において、対処していかなければならない緊急のテーマです。

日本の国と企業は、介護人材不足について取り組みを継続していますが、まだまだ、十分とはいえない状況です。

そこで今回は日本における介護人材不足の背景と今後の取り組みについて、最新の情報をデータや統計に基づいて解説します。

日本における介護人材不足の背景

人材不足の問題は、介護業界に限らず日本企業の大きな課題です。

人材不足の背景には日本の高齢化・少子化があります。

介護が必要となる人口が増えているのに対し、介護する側の人口が増えない構造が介護人材不足の大きな背景でしょう。

高齢化の現状

内閣府の「令和3年版高齢社会白書」によると、日本の総人口1億2,571万人(令和2年10月1日現在)のうち、65歳以上人口は、3,619万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)は28.8%にのぼります。

日本の高齢化は世界のほかの国と比べて速い速度で急速に進んでいるため、その速度に対応して早急に高齢化に備えなければなりません。

日本の65歳以上人口の推移は以下のようになります。

  • ・昭和25年(1950年):総人口の5%未満
  • ・昭和45年(1970年):総人口の7%越え
  • ・平成6年(1994年):総人口の14%越え
  • ・令和2年(2020年)10月1日現在:総人口の8%

さらに15歳から64歳の生産年齢人口は平成7年(1995年)にピークを迎えた後、減少に転じており、令和2年(2020年)には総人口の59.3%になっています。

少子化の現状

高齢化が進む一方で、出生数は減り続けています。

引用元:内閣府 令和3年版高齢社会白書 出生数及び死亡数の将来推計

高齢化の現状

継続的な出生数の減少によって、生産年齢人口(15~64歳)は令和11年(2029年)には7,000万人を割り込み令和47年(2065年)には、4,529万人になると推計されています。

将来生産年齢人口となる年少人口(0~14歳)も、令和38年(2056年)に1,000万人を割り込んで、令和47年(2065年)には898万人まで落ち込むと推計されています。

内閣府の「令和3年版高齢社会白書」の統計からも分かるように、高齢化によって介護が必要となる可能性が高い65歳以上人口が増えているのに対し、少子化によって介護する側の生産年齢人口(15~64歳)人口が増えない状況が日本における介護人材不足の背景にあるといえるのではないでしょうか。

このまま、高齢化と少子化が続くと、令和47年(2065年)には、生産年齢(15~64歳)1.3人で65歳以上1人支えることになります。

引用元:内閣府 令和3年版高齢社会白書 高齢化の推移と将来推計

介護人材の必要数

厚生労働省がまとめた「第8期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について」のデータによると介護人材の必要数は、以下のように試算されています。

  • ・2023年度:約233万人、2019年と比べプラス約22万人(年間5万人プラス)
  • ・2025年度:約243万人、2019年と比べプラス約32万人(年間3万人プラス)
  • ・2040年度:約280万人、2019年と比べプラス約69万人(年間3万人プラス)

厚生労働省の試算から、介護人材の必要数が急速に増加していく将来像が見えてきます。

高齢化・少子化を背景として人材の確保が困難になる中、介護人材の必要数は増加するわけですから、介護人材確保に向けた取り組みは、緊急の重大課題といえるでしょう。

厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について(令和3年7月9日)」別紙1より

介護人材確保に向けた今後の取り組み

介護人材確保に向けて、国と地域が一体となって、介護未経験の人材が介護職へと流れるように入門的な研修推進するための取り組みや、介護事業者の人材育成の取組みを後押しする認定評価制度、介護人材の労働環境や処遇の改善を進めるための対策に取り組んでいます。

また、介護事業者も人材確保が困難な人材市場の中で人材確保に向けた取り組みを実施しています。

この章ではそうした介護人材確保に向けた今後の取り組みについて紹介します。

国と地域が一体となって推進する介護に関する入門的研修

厚生労働省では、介護未経験者が介護の知識を得て、介護人材へ流れるように、広く介護について学べる機会をつくるとともに、介護分野で働く際の不安を払拭できるよう、介護に関する入門的研修の実施に関する基本的な事項を定め、研修実施を推進しています。

研修は各都道府県の自治体が主体となって全国各地で開催され、研修修了者に対して、修了証明書が発行されます。

入門的研修の主な対象者は、定年退職を予定している方や中高年齢者、子育てが一段落した方などが想定されていますが、地域の住民や学生などにも幅広く研修を実施いただくことも可能としています。

人材育成等に取り組む介護事業者の認証評価制度

人材育成等に取り組む介護事業者の認証評価制度とは、労働環境・処遇の改善や新規採用者の育成体制の整備、従業員のキャリアパスと人材育成といった人材育成や就労環境の改善につながる介護事業者の取り組みに対して、都道府県が評価を行い、一定の水準を満たした介護事業者に認証を付与する制度です。

介護事業者の認証評価制度によって、介護事業者の人材育成や就労環境の改善につながる取り組みを「見える化」することで、介護業界で働く従業員が働きやすい環境整備をすすめて、介護業界のレベルアップとボトムアップを推進して、今後介護職を目指す人材の流入を増やし、既存の介護職員の離職防止と定着を目指します。

その結果、介護業界のイメージアップに繋がることを期待しています。

介護事業者の人材確保に向けた取り組み

介護事業者はさまざまな工夫をしながら人材確保に向けた取り組みを行っているのが現状です。

人材確保のためには、新規採用者を獲得するとともに既存の従業員が退職しないような取り組みを実施する必要があります。

一般的には前述の認証評価制度にある評価項目を基本とするのがよいでしょう。

労働環境・処遇の改善

給与支給基準や昇級基準等を策定し従業員に周知するなどの明確な給与体系の導入や休暇取得・育児介護との両立支援、ICT活用や介護ロボット・リフトなどによる業務省力化への取組によって、労働環境や処遇を改善します。

新規採用者の育成体制の整備

育成手法、内容、目標が明確な新規採用者育成計画を策定し、計画的に研修を実施します。

また、新規採用者の育成に関わるOJT指導者などのスキル向上のために研修を行います。

従業員のキャリアパスと人材育成

従業員がモチベーションを維持しながら生産性を上げていくように非正規から正規職員への登用ルールなどのキャリアパス制度の導入などを検討します。

また、介護業務は資格によってキャリアアップしますので、介護福祉士などの資格取得に対する支援も必要でしょう。

その他にも、外国人人材の活用や企業のイメージアップをはかるなどの取り組みがみられます。

まとめ

介護人材の確保は高齢化と少子化がすすむ日本では困難な状況が継続することが予測されます。

そんな中で、介護人材の必要数は年々増加していきます。

介護人材の確保のために、国と地域が一体となって、介護人材の労働環境や処遇の改善を進めるための対策に取り組んでいます。

介護事業者はさまざまな工夫をしながら人材確保に向けた取り組みを行っているのが現状ですが、労働環境・処遇の改善、新規採用者の育成体制の整備、従業員のキャリアパスと人材育成といった基本的な取り組みを充実させながら、企業独自の工夫を継続していくことが求められるでしょう。

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