「介護って下の世話でしょう?」
「介護の仕事するなんて凄いね」
「やっぱりキツイの?」
「私だったら出来ない」
派遣の職場で言われた言葉です。
何で?
シンガーソングライターとして精力的に活動しながら、現役の介護福祉士として介護の現場で働き続ける。そしてそこで感じたことを歌にする。そんな活動をしている私の思いを綴ります。
介護から離れて気づいた事
私は就職して3年で介護の仕事を辞めました。変則的な勤務に休まらない身体。
学生の頃から続けていた音楽活動との両立も難しくなり疲れと未来への不安が高まっていました。
その時は離職しか選択肢を見つけられませんでした。
ただ、辞めるまで職場でも家庭でも周りにお年寄りがいるのが当たり前でした。
離れてはじめて知った世間の介護のイメージ。驚きと違和感を感じ、介護の仕事をしていた時よりも介護の事を考えるようになりました。
もちろん仕事は大変な事もありましたが、お年寄りと話す事は楽しいし、癒されたり励ましてもらえる瞬間が沢山ありました。だから今は介護の仕事に戻りました。
お年寄りのふと呟く言葉に、その方の歴史が垣間見える瞬間があります。
その瞬間をパズルのように組み合わせていくと少しずつその方の物語を知れるような気がします。介護の現場から垣間見える物語を一緒に覗いてみませんか?
94歳の先生
ハツさん(仮)がトイレから出てこず、私は心配になったので様子を見に行きました。
私「ハツさん、どうされたんですか?」
ハツさん「爆弾が落ちよるけん隠れとんや。アンタも隠れなさい。」
私「今はもう落ち着いたので大丈夫ですよ。一緒にここから出ましょう。」
ハツさんはトイレという狭い空間にいることで戦時中に防空壕で隠れていた時の事を思い出していたのです。ハツさんの表情や言葉から教科書よりもリアルに戦争の恐ろしさを教えてもらっている気がしました。
激動の時代を生きたハツさんの強さに心を動かされた瞬間でした。
褒め上手で商売上手
新人職員の頃、仕事が上手くいかず落ち込んでばかりの日々でした。そんな時にタエさん(仮)は、ひたすら褒めてくれました。
タエさん「アンタええな~」
私「ありがとうございます。頑張ります。」
タエさん「アンタのエプロンええな~」
ひたすら褒めていたのは私ではなく私が着ていたエプロンだったのです。
勝手に喜んでいた数カ月、思い出すと恥ずかしいですが、クスッと笑える出来事でした。
そして何故エプロンを褒めていたのか。それはタエさんの歴史を辿れば分かります。
タエさんは昔、服の販売をしていました。なので元々服に興味があるという事。
また、接客業だった事から褒め上手だったのではないでしょうか。
きっとタエさんのお店に私が行っていたら、この接客テクニックで常連になっていたに違いないと思いました。
フウフの記憶
キエさん(仮)「お前100まで~、わしゃ99まで~共に白髪の生えるまで。チョイなチョイなー!」
私「良い唄ですね!もう一回歌ってください!」
入浴時、湯船に入り気分が良くなると必ず歌ってくれました。そして旦那さんは優しい人だったと、しきりに話をされていました。
ある時キエさんがふと呟きました。
“タケシさんがここにいる”と。
私「タケシさんって誰ですか?」
キエさん「40歳の頃に好きだった人」
この言葉に込められた思いや、真相は未だに分かりません。
伝えたいこと
お年寄りが乗り越えてきた日々の話や言葉は深みがあり心に響きます。こういう声に耳を傾ける事で昔の事を知る事が出来るし、良い関係作りになるのではないかと思います。
そして、介護の現場は色んな発想や考え方が大切だと教えてくれる場でもあります。
そんな発想を今は音楽に変えて発信しています。私にとって介護と音楽は切っても切り離せない大切な存在です。
これからも介護の魅力を、そして人の物語を伝え続けていきたいと思っています。