自立支援介護の導入議論が本格化⑤

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自立支援介護をテーマとした論考の5回目。

前回の更新から随分時間が経過しました。

夏から一気に冬。もう師走ですね!!

先ごろ12月6日に開催された高齢住宅フェスタにおいて、「自立支援」をテーマにパネルディスカッションを行いました。ここでは、「自立支援介護」に対して、様々な立場のパネリストで活発な意見交換が行われ、大変有意義な場となりました。

このパネルディスカッションで私の「自立支援介護」に対する現在の考え方を網羅的に整理して資料提供しましたので、このパネルディスカッションが終わるまで、コラムの更新も控えていましたので、時間が経過していまったことをご容赦ください。

この間に自立支援介護を取り巻く環境も大きく変化し、次期改正での制度への落とし込み内容も見えてまいりました。

改めて、8月からの制度改正動向を少し振り返っておきたいと思います。

8月からの制度改正動向

◆2017年7月10日~8月21日 平成29年度老人保健健康増進等事業「自立に資する介護に関する調査研究事業」

「介護の分野において、自立支援等に関してどのような知見がどの程度蓄積されているのかを把握すること」を目的とし、厚生労働省が、みずほ情報総研に委託した調査事業です。

十分な募集期間がなかったのでそれほど多くの調査事例が集まったわけではありませんが、初の本格的な「自立支援介護」に関する調査が行われました。

 

◆2017年8月23日 第145回社会保障審議会介護給付費分科会

上記の調査結果も受け、社会保障審議会においては、初めて「自立支援介護」について具体的な検討が行われ、次期改正における制度導入について意見交換が行われました。

 

◆2017年10月12日 第1回科学的裏付けに基づく介護に係る検討会

給付費分科会では次期改正に向けた検討を行っていますが、厚生労働省主管による「自立支援介護」の中身を中長期で議論・検討していく場がスタート致しました。現時点ですでに3回の検討会が開催されました。この検討会は2021年・24年における制度改正へと繋がっていくこととなります。

 

◆2017年11月2日 国際・アジア健康構想協議会 第1回アジアに紹介すべき「日本的介護」の整理ワーキンググループ

内閣官房が主管となる国際・アジア健康構想協議会におけるワーキンググループ。ここでは「日本的介護」として自立支援介護を体系化していく官邸主導による検討会です。こちらは現状検討内容は非公開となっています。私自身もこのワーキンググループの構成員を務めています。

 

◆2017年11月29日 第153回社会保障審議会介護給付費分科会

自立支援に向けたインセンティブについて、給付費分科会では2回目の議論。ついに次期改正における制度導入案が示されることとなりました。次期改正における事業者インセンティブは要介護認定による改善を指標とすることは相応しいくないとの見解が示されました。その上で、次期改正においては、まず試験的に通所介護事業において、ADL(日常生活動作)の維持・改善を評価する指標として「Barthel Index(機能的評価)」とする案が示されました。

 

これまでの議論において、ADL(日常生活動作)の維持・改善のみにフォーカスすることの懸念が多く指摘され、QOL(生活の質)の改善こそが最も重要であると言われてきましたが、今回は、完全にADL(日常生活動作)に特化した指標で決着したようです。

この制度導入に関する詳細や私の意見については次回以降でまた詳しくお伝えしたいと思います。

ここまでが、この夏からの制度動向の流れです。ついに次期改正でのインセンティブ案が示されました。

しかしながら「Barthel Index(機能的評価)」というADL(日常生活動作)評価指標での評価、通所介護事業でのスタートと、当初からお伝ええしている通り、次期改正ではあくまでトライアル的制度導入であり、2021年・24年改定での導入が今後の議論を経ていき本格導入となります。

「自立支援介護」の制度導入のデメリット

さて、夏からの振り返りが終わったところで、いよいよ本題。前回の④では、「自立支援介護」の制度導入のメリットを整理してお伝えしましたが、

今回は「自立支援介護」の制度導入のデメリット。反対意見、課題についてを整理してお伝えしたいと思います。

 

まず、自立支援介護への反対意見や課題には大きく2つの視点があります。

1つは、『自立支援介護に対する認識不足や、感情論での意見であり、議論に値しない反対意見』

もう1つは、『自立支援介護に対する理にかなった指摘であり、対応策を検討していくべき課題』

となります。

これら2つの視点に基づく、反対意見や課題指摘の詳細を整してお伝え致しますと

◆自立支援介護に対する認識不足や、感情論での意見であり、議論に値しない反対意見

①竹内理論の悪しき実践事例の一部を捉えただけの反対意見

②竹内先生に対する個人的な感情に基づく反対意見

③官邸主導での政策に対する嫌悪感に基づく反対意見

④高齢者の自立を支援すること自体を良しとしないという見解

 

◆自立支援介護に対する理にかなった指摘であり、対応策を検討していくべき課題

①人間が老いて死を迎えることは「自然の摂理」であり未来永劫改善することは出来ない。

・一時的な改善は見られても、最終的には衰えていくことに抗うことは出来ない。

・一時的な改善のみを評価し、重度ケアやターミナルケアなどのステージでのケアを評価しないのは不当である。

・短期的な時間軸での改善のみを評価することは好ましくない。

・社会保障財源への寄与についても短期的な改善のみでは、限定的な効果しか出ないのではないか。

②事業者が改善し易い利用者のみを選別するようになるではないか。(クリームスキミング)

・そもそも多くの事業者はインセンティブを付与しなくても高齢者の自立支援に向けた実践を行うものである。

・逆にインセンティブを求めて、改善し易い利用者を選別し、改善し難い利用者を断るような事業者が出てくるのではないか。

③要介護度の改善をアウトカム(結果)評価とすることを危惧する。

・要介護認定の認定精度には正確性を欠くケースも多く、そのような精度でインセンティブを付与することは好ましくない。

・要介護認定の指標はADL(日常生活動作)に基づく項目が多く、自立支援において最も大切なことは高齢者のQOL(生活の質)を高めることであり、ADL(日常生活動作)向上だけでインセンティブを付与することは好ましくない。

・インセンティブを求めて要介護度の改善を最優先にし、高齢者の意向を無視した、強制的な機能訓練などが行われる可能性がある。

④自立支援介護の実現は他職種連携によってはじめて可能となる。

・1介護事業所のみで自立支援が実現できるのではない。

・適切な医療との連携が行われてはじめて自立支援が実現できるのであり、介護事業所のみの成果ではない。

・在宅介護サービスの場合には、複数サービス・複数事業所が共同で介護にあたっているので、改善に対する貢献度を評価することが困難である。

以上が、主だった、自立支援介護の制度導入に対するデメリット・反対意見・課題であります。

 

1つ1つの項目に対する詳細解説や、課題に対する対応策については次回に詳しく述べることとし、今回は、課題点の整理までと致します。

1978 年奈良県生まれ、2000 年立命館大学経営学部卒業 2000 年 4 月 飲食業のコンサルティングや事業再生を手掛ける株式会社ベンチャーリンクに就職 2003 年 5 月 メディカル・ケア・サービス株式会社に入社 2005 年 8 月 取締役運営事業本部長に就任 2010 年 5 月 株式会社日本介護福祉グループへ入社 2010 年 7月 取締役副社長に就任 2010 年 12 月 一般社団法人日本介護ベンチャー協会を設立、代表理事に就任 2013 年 8 月 株式会社日本介護ベンチャーコンサルティンググループを設立、代表取締役に就任 ホームページ:http://jcvcg.com/

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