介護事業経営者も職員も入所者も「三方良し」の経営理念の実践

岩手県一関市常堅寺住職 一般社団法人てあわせ理事長後藤泰彦

先月ある新聞に「介護事業に携わる経営者にとって必須な理念は」という記事が掲載。それは経営者の死生観・宗教観・倫理観が大切と言う内容に、「言い得てしかり」と感じました。

経営哲学と仏教のおしえ 「三方良し」の金言

一般の事業経営者には経営哲学というものが不可欠です。商品であれ、サービスであれ、顧客に満足を届け、自らも対価を得て、さらに社会的にも貢献する。
その理念は、日本古来の近江商人の商道哲学である「三方良し」(三方一両得)の経営が基本です。ご存知のように三方とは、売る人、買う人、そしてその品物。その三方が全て円満に、幸せスパイラルに上昇することを目的とした経営であり、商道でなければならないということです。
仏教では、施す人と施される人、そして施しの物や心の三つが、すべて清浄でなければならないと説きます。これを三輪空寂(さんりんくうじゃく)と言い、布施する時には、自分も相手も心が清らかなことが必須条件です。

皆さんが考えるお布施はイコールお金であり、葬儀や法事でのお寺への気の進まないお気持ち、のように思うかもしれません。しかし、本当のお布施の意味は、笑顔や言葉、優しい気持ちであり、お金だけではないのです。

思うに、近江商人はその昔、仏教からこの「三輪空寂」を学び、三方よしとして商道に取り入れたのではないかと考えます。

看取り介護には死生観・宗教観が必要!?

介護事業の経営者は、経営哲学の上に死生観、宗教観、倫理観が要求されます。
昨今、延命を望まない「看取り介護」が少しずつ浸透し始めています。今までは病院で亡くなる方がほとんどで、介護事業所は死期が近いと察したら病院に搬送していました。しかし、これからは、施設内で死を看取って行くことが求められる時代になります。人の死に携わるからこそ「死生観・宗教観」が求められることにもなるのです。
でも、死生観て何?宗教観、必要ですか?というのが本音でしょう。

数年前からの看取り介護の導入で、経営者だけでなく施設職員にもこの感覚を、というのは少し荷が重すぎます。だいたい死に携わると言っても、家庭で死を看取って来た世代は昭和40年頃まで。それ以後に生まれた方々にとって、死は病院内の閉ざされた空間のことであり、身近に死に接する機会はありませんでした。人の命の終焉と真摯に向き合う経験がない世代。その世代の方々に看取りを対応させることは、死への体験不足、認識不足からとても難しいことなのです。いざ死に接して心が動揺し、心身疲弊し、それが積み重なった燃え尽き症候群(バーンアウト)という症状もよく耳にします。

あの世とこの世の柔らかな世界

経営者や職員がどこまで人の死に接する死生観を求められるか、それはとても難しいことなのです。
そんな時、寺院との連携事業をお考えになったら如何でしょう。
ある介護施設では、彼岸や盆になると住職を呼び、施設の一室で供養の経を挙げ、法話をします。
認知症の高齢者も読経に耳を澄まし、自然に和やかに手を合わせ瞑目します。お経のリズムが自分の過去の思い出や、今は亡き両親や先祖への時空を超えたハーモニーとして響くのではないでしょうか。あの世とこの世を、柔らかい空気のように感じるのだと思います。

暴力的な行動や徘徊癖の高齢者も、お経の声に心穏やかに表情が変わっていく姿を拝見します。日本人の多くは仏教の習慣や行事が脳裏に染み込んでいて、加齢による脳の障害でも無意識の中から温かな人間性が蘇ってくるのです。

介護施設経営者にとって大切なことは、・・観という難しい観念ではなく、この世とあの世をつなぐ命のやり取りに、理解を示す事ではないかと思います。

経営者も職員も入所者も 心穏やかな経営理念の実践

に心が和み、会話も生まれてきます。

そんな柔軟姿勢を介護事業社の経営理念に取り入れること。その柔軟理念があるからこそ、入所者やその家族の安らぎと、経営向上や職員の満足度、やりがい度の向上にも繋がります。

それこそ、死生も宗教も倫理も溶け込んだ、現代の「介護事業経営の三方良し」です。

難しいことではありません。みんなと手を取り(協力)、手を合わせる(祈る)ことで、あなたも私もサービスも、円満安心満足の上昇スパイラルが構築できるのです。

後藤 泰彦

岩手県一関市 常堅寺住職 一般社団法人てあわせ理事長 駒沢大学卒業後大本山で修行。震災の心の復興支援団体「てあわせ」を設立し鎮魂の千本桜を植樹。東北大学臨床宗教師課程終了。災害セラピーの経験から、病院・施設での音楽活動を通しストレス緩和、看取りや死生観を説く。写経写仏を体験できる寺子屋カフェを都内で開催。東北の桜樹木葬を運営。心の応援歌「てあわせ花言葉」は人気のインスタサイトに。

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