東北を襲った2011年の未曾有の大災害。
多くの尊い命が失われ『こんな時何ができるか』と自問自答の日々を送る方も多かったことでしょう。
そんな中、『花に生まれ変わる』『桜の花になっていつまでも見守る』という樹木葬のコンセプトから鎮魂の桜を植樹する活動を始めた一般社団法人『てあわせ』。
『花』と同じように人々に希望や元気を与える『音楽』も活動に取り入れ、震災後の人々の心のサポートをされています。
シニアの豊かな暮らしを応援する情報番組「吉川美津子のくらサポラジオ」では、岩手県の曹洞宗 常堅寺ご住職であり、一般社団法人『てあわせ』理事長の後藤泰彦さんをゲストにお迎えし、お話を伺いました。
一般社団法人『てあわせ』の活動開始のきっかけ
一般社団法人『てあわせ』の活動開始のきっかけをお伺いしました。
「もともと10年前に桜の樹木葬を始めたのがきっかけでした。
その当時からご遺骨の問題『お墓はもう維持管理できません』という問題があったんです。
その頃出てきた葬法が、桜をシンボルとした『花になる。花に生まれ変わろう』という樹木葬です。樹木葬に感銘を受け、作ってみました。
それから2年後に起きたのが東日本大震災なんです。
私のふるさとも大きな被害を受け、住んでいる岩手県も沿岸部も。
本当に未曾有の大災でした。
この時『自分は坊さんとして何ができるんだろう』とかなり悩んだんです。
悩んだ末『これだ!』と思ったのが、樹木葬のときに知った『花に生まれ変わる』『桜の花になっていつまでも見守る』という考え。このコンセプトが活かせないかと思い、鎮魂の桜を植樹する活動を始めました。
戦争で亡くなった方々の鎮魂を祈るために戦後植えられた桜が、50年60年たって全国的に素晴らしい桜並木となっています。
寒さを経て花を開く桜。
震災で折れた大木の桜もあの年の4月にはきちんと咲いたんですよね。
そういったことから、『桜は復興の希望のしるし』といえると思います。
この桜を、震災で被害を受けた方々と一緒に植えてみようと思ったのがこの活動のきっかけです。」
新聞に取り上げられ広がった活動
新聞などに取り上げられ、広がった植樹。
「桜を植える活動は私の他にも、あちこちの団体が始めたんです。
私の活動も全国紙に取り上げられたことがあり、それで寄付が集まったんです。
これを元に、多くの方々と約1,000本植えました。
さらに石巻に、鎮魂の森という子どもたちが自由に遊んだり、山小屋建てたり、遊具を作ったり、そういったことができる活動費も。
本当にありがとうございました。」
被災地のためにできることは人それぞれでいい
東日本大震災の時に遠方にいた人は、被災地のために何ができるんだろうって一生懸命考えさせられた時期だと思います。
その時に、自分がいいなと思う活動に『お金』という形でも、何か協力ができるというのは、遠く離れたところにいる人間にとっても救いでした。
「あのとき『自分が何ができる』という問いかけを、みんなしたんじゃないでしょうかね。
お金が出せる方はお金でもいい。
ボランティアできるっていう方は、九州からも来てくれました。」
歌がくれる不思議な力
現在は、その活動範囲を広げられて色々なことをされてらっしゃるみたいですね。
「震災のときに『桜』花というのは、人の心に希望を与えると思い、同じように『歌』も被災地の方々に元気を与えるんじゃないかと思いました。
南こうせつさんのお兄さんで大分県で住職をされている方がいらっしゃいます。『歌う住職』といって有名な方です。
その方に電話で相談をしたら、「いいですよ。私で良ければ行きますよ。」と快諾してくださり、震災の年の6月に、わざわざ大分から来てくださいました。
そして私と一緒に被災地の仮設住宅をまわりました。
大切な方を亡くされている皆さんが、歌でみんな元気になっていくんですね。
まさに、マジック。
魔法。
歌のすごさっていうのをね、あのとき感じましたね。」
歌には元気になる力がある、そう体感されたんですね。
不思議な力がありますよね。
「自分ではなかなか音楽なんかできないんですけども、それをきっかけに、何かこう音楽をやってみたいなっていう気持ちが湧き出してきて。
たまたま近くにウクレレの先生がいらっしゃって、うちの妻と一緒にウクレレ習いながら、介護ケアでポロンポロンやっています。
熊本の地震のときにもね、向こうに行って介護施設で演奏してきました。
そんなに回数はないんですけども。
皆さん、喜んでくださいました。」
ウクレレ持って歌う住職の音楽療法
とてもおもしろい活動で、ご住職がやるからこそ説得力があります。
「お話が上手な坊さんは布教とかご説法でいいんでしょうけども、私は話が下手なものですから。
介護施設なんかで音楽療法というものがありますが、震災のときも一つの震災セラピーになると思います。
一般の方がされる音楽的なものも効果があるでしょうけども、私らみたいな僧侶が音楽療法をするのも、また変わってていいんじゃないかな、と思ってます。」
介護施設に僧侶の先生方がかかわっていただける。
ひと昔前だと、少し違和感がある方もいらっしゃったと思いますが、今は逆にありがたがられ、これからもっと必要とされると思います。
ウクレレや音楽を切り口にかかわっていただけると、お互いに身近になれます。
超高齢化社会における仏教のかかわり
「震災の後に、東北大学で臨床宗教師という研修が始まり資格にもなっています。
そこにも私、研修に参加させていただいたんです。
そこでは、神道も仏教もキリストも、すべての宗教は『死にゆく方とかかわりあう』ということだと教えています。
普段、私みたいな衣を着て病院に入ると
『まだですから、縁起でもないですから、帰ってください。』
なんてよく言われるんですよ。
檀家さんのお見舞いで行くとね
『お師匠さん、まだですから。』
『何がまだなんですか。』ってね。
でも、本来は仏教というのは、亡くなるときにどうやってかかわれるかです。
『生きているとき』『看取りのとき』そして『死後』
この3つの期間にかかわっていくのが、僧侶だったんです。
今ではすっかり病院という何か建物に『死』というものが押し込められて。
それで『坊さん、はい出番ですよ』と言ったら、呼び出される。
それは違うのではないかと。
今でも病院は臨床宗教的な立場でなかなか難しいところもありますが、介護施設のようなところだったら、宗教としてかかわるのではなく、もっと広い仏教的なかかわり方ができる。
そういう目線で坊さんを見ていただきたい。
仏教というのは日本の財産です。
まさに宝だと思います。
1500年、神道の上に、インド、中国、そして日本に渡ってきた仏教。
その教えが日本に根付いて、人々の『悲しみ』『喜び』『終末』に根差してきているわけですから。
これからの介護現場、どんどん超高齢化になっていきます。
世界もみな高齢化していきますが、そのトップバッターは日本です。
その日本がどのように超高齢化を乗り切っていくかを、世界は見ていると思います。
そこで、日本の宝、知恵である仏教が今こそかかわっていった方がいいというのが、私の持論です。」
たとえば、財産のことなどは専門家としてかかわれる人はいます。
ですが、気持ちが救われ、やすらかな気持ちで晩年を過ごすためには・・・という面では、やはり宗教者の皆様のお力添えが必要です。
心のよりどころや信仰は、私たち日本人の根底にあるものですから。
Instagramを活用した情報発信
後藤さんは、Instagramで情報発信されています。
毎日1,000人以上の方が『いいね』してくれる、人気のInstagramでカレンダーにもなっています。
「震災を経験して、私のテーマは桜を代表とした『花』となりました。
これを多くの人に知っていただきたいと思い、1年半前から写真にちょっとした言葉を添えてInstagramで毎日発信しています。」
見てくださる方の大体7割は女性のようです。
後藤さんは『花』『寺犬の柴犬』そして『お地蔵さん』の写真に言葉を添えてアップされています。
「お地蔵さんも仏教の大切な要素だと思います。
昔から道端にあるお地蔵さん。
悲しいとき、うれしいとき、そこを通るとき、みんな手を合わせて行ったんです。
私は、介護施設にお地蔵さんを一つプレゼントしようかなと思っています。
かわいいお地蔵さんがあるので。
介護の現場で苦しく燃え尽きるような気持ちでお仕事されている方や、入所者の方々に、お地蔵さんを見て手を合わせていただくと、それだけでも心安らかになっていくんじゃないかと。」
写真に添えるお言葉も全部、ご自身でお考えになられているのでしょうか?
「まずは私が考えます。
それをチェックしてもらうのがうちの妻なんです。
大体インスタを見てくださる方は7割がた女性です。
男の目線で書くとどうも伝わらないものが、女性目線でやわらかく伝えると多くの方が反応してくれる。
だからうちの妻にチェックを受けないと。
そういう毎日が修行であり、苦行のようなでもあります。」
まとめ
さまざまな取り組みを通して、地域の方々の拠り所としてご活躍されている後藤さん。
お寺の在り方を考え、お寺と介護事業所との繋がりを作ります。
岩手県 曹洞宗 常堅寺 ご住職の後藤泰彦さんのラジオ出演の様子はYouTubeでも配信しています。ぜひご覧ください。
後藤さんの詳しい活動をお知りになりたい方は、一般社団法人『てあわせ』と後藤さんがご住職をされている『常堅寺』の2つの活動が一緒になった『てあわせ常堅寺』というホームページがあります。
コラムで紹介したInstagramはこちらです。
公式Instagram