スーパー活かし、シニアの“居場所”展開  徳島で2号店も マルナカ(高松市)

四国を中心にスーパーマーケットを展開しているマルナカ(高松市)が昨年同市内に開設した高齢者向けの居場所「紡」が好評だ。

この4月には徳島市に2号店をオープン。営業本部紡事業部の外山恵理さんに話を聞いた。

開設一年で会員は500名 笑いと会話を求めるシニア

高松市内にある「紡」に到着すると、4人組の女性が紡の月間予定表を眺めていた。

「来月の予定はまだ出ていないのね」
そんなセリフが聞こえてきた。紡が必要とされている場所になっていることがわかる。

外山さんにそれを告げると「嬉しいですね。紡の予定にご自身の予定を合わせている方々もいらっしゃいます」ということだった。

紡の利用者たち

紡の利用対象者は55歳以上のシニア。
年会費が1000円、毎日開かれている講座へは1講座200円で参加可能。
営業時間は9時から18時まで。
店舗で購入した飲食物は自由に持ち込むことができる。

「オープン1年で会員は500人弱にまでなりました。
9時半と13時半には、オリジナル体操を行っており、毎日参加している会員もいます。
整形外科への通院がなくなった80代の女性、隣の愛媛県から毎月参加してくれる会員様もいらっしゃいます」

会員の作品

 

これまで多くの“シニア”に出会ってきた外山さん。
紡の存在力に驚かされることが多々あったと語る。

「紡の会員は、心身共に健康な方もたくさんいますが、中には病気を患っている方、一人暮らしで殆ど会話のない毎日を過ごしている方等もいます。

重い病気を患っている方の家族から
『紡に通いだしてから元気になった』

一人暮らしの会員から
『毎日が本当に楽しい』
『紡に通うようになるまでは着替えもせず、家に引きこもりだった。ここに来て人と会い、話をして笑って、体も動かすことでよく眠れるようになった、食欲が増した』

といった声をよく聞きます。

高齢者は、笑いと会話を求めているのだと日々感じています」

 

囲碁に興じる4人の男性シニア

訪問したとき、囲碁に興じていた4人の男性シニアがいたが、外山さんは

「知らない男性がいますね。きっと、ここに来て出会ったのでしょう。
知らない人同士の交流も自然に生まれています。
ここで仲良くなった会員同士による『あの人、最近来ていないわね。電話しておくわ』といった見守りにもつながっています」

 

経済的に苦しい等の事情がある家庭環境の子ども向けに雑巾を縫うためのボランティア講座を5月上旬に行ったところ、家に帰って縫う会員、空いた時間に紡のスペースで縫う会員の姿があるなど、自主的な行動が目立った。

「ここに来て誰かのためになる活動もできる。目的があることの大切さも感じています」

仕事をしたいという会員の声にも応えたいと外山さんは話す。
また、惣菜等の食べ物も提供するスーパーマーケットだからこそ、シニアの体を考えた健康な食事提供や口腔ケアのような支援も行っていきたいという。

“充足”されれば人は元気になる 制度を利用しなくとも、今日行く“場所”や“用事”さえあれば。

一方で、課題は交通アクセス。
紡があるのは市街地で公共交通機関でのアクセスが難しい。

「『足がない』『バスを出して』とよく言われますし、来たいという問合せもあります。
行政の補助などが受けられたら良いのですが…」

バス送迎といった支援を受けることができれば、より多くの活用が見込める。
それは元気なシニアを増やすことにつながる。

 

高齢化により介護施設不足・介護労働力の不足・医療費の増大が懸念されております。
しかし現実はもっと基本的なことの充足、「教育(今日行く場所)、教養(今日の用事)」があれば、多くの高齢者は心身共に、健やかに、元気になっていくのかもしれない。

紡には、介護や医療に関する資格保有者がいないこと、それでもここで元気になっていったシニアがたくさんいるという事実があるのだから。

まとめ

“ひとりではない人間の力”“目的や目標を持った人の力”を侮ってはならない。

国は、シニアに元気でいて欲しいならば、制度の枠の外で起きている、こうした“現実”を視て欲しい。
そんな風に私は思うのだった。

 

徳島県美馬市に4月に誕生した紡の2号店。
高松市の紡よりも反応が早いという。

「3日間しゃべっていないの」
「こういった場所、待っていたのよ」
といった声が早々聞かれたのだそうだ。

期待は大きい。今後の展開が楽しみだ。

紡の外観

1983年生まれ ライター。武蔵大学社会学部卒。埼玉県出身、現在は香川にて、介護職の夫と3歳の娘と暮らす。 高齢者住宅新聞フリー記者として、介護・福祉・医療分野を長く取材。 地域社会、コミュニティ、多世代、ごちゃまぜ、建築、シェアハウス、まちづくり、オーガニック、食といったキーワードに飛びつき、介護・福祉・医療とはコミュニティであり、まちづくりという観点を持ちながら、フットワーク軽く取材をこなす。 時々、高校野球をテーマに原稿も執筆。

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