高齢者ができないことをお世話することが中心だった今までの介護から、高齢者が自分でできるようになることを助ける『自立支援』に軸足を置くこととなった日本の介護・福祉業界。
介護・福祉事業経営者は古くからある課題を解決し、新たな介護を導入する必要が出てきました。そんなとき強い味方となってくれるのがコンサルタントの存在です。
シニアの豊かな暮らしを応援する情報番組「吉川美津子のくらサポラジオ」では、介護・福祉事業について経営戦略・コンサルティングをされているポスト・ヒューマン・ジャパン株式会社の代表取締役 谷本正徳さんをゲストにお迎えしお話を伺いました。
専門領域の事業支援だけでなく、新たな事業展開の提案も。 新たな切り口で、介護福祉事業者の成長発展を支えています。
新たな視点から見るからわかる介護・福祉業界の課題
ずっと介護・福祉業界にいると気がつかないことも、他の業界から参入されると新たな視点で気づくことも多いのではないでしょうか?
元々はまったく異業種で、建設会社のコンサルティングや上場企業の株式上場の内部統制といったコンサルティングをされていた谷本さんに現在の介護・福祉事業の課題について伺いました。
「とくに社会福祉法人さんには、独特のカルチャーがあります。
一時期までは利用者がいてもいなくても同じお金が入ってくるという時代がありましたので、他の民間企業に比べると少し厳しさに欠ける法人さんもいらっしゃいました。
それも、だんだん時代が厳しくなり『どうやってそこから仕切り直しするか』と考えないといけなくなりました。そのサポートは大変です。
よろしくないたとえ話でお叱りを受けることもあるのですが、動物は野生にいるときは子供を育てるためにお父さんお母さんライオンは頑張って餌を採るために動くが、動物園に入っている動物は自分で餌を探さなくていいので、子供を育てる本能がなくなるという有名な話があります。
庇護されるとだんだん弱くなる。
そこからいきなり野に放たれたのが今の社会福祉法人ではないでしょうか。
誰も悪くはないのですが、そういう大変さはあると思います。」
介護保険もこれから持続・永続させていかなければいけません。ですから効率よくはやらなければいけない。
今まで、ケアの質は日本独特の発展を遂げましたが、これからはケアの質と経営の両立を目指さなければならないでしょう。
福祉・介護業界のイメージはラグビー
現在コンサルティングをしていく中で、どんなお悩み事、課題を見出している福祉・介護施設が多いのでしょうか?
「介護の世界は独特です。営利法人とは違います。
コンサルの経験から、上場企業は見事なピラミッド組織で、上からドーンと指令を落とし、ピラミッドの下の方はその指令を聞くのが当たり前という形だと思います。
上場企業は、野球のチームプレーに近い。
監督・コーチがいうことすべて。
対して、社会福祉法人や介護の現場では、現場の力が結構強いことがわかります。
日夜忙しい中でお仕事されていますから、野球ではないですよね。サイン見ている暇がない。
だから福祉・介護業界のイメージに近いのはラグビーです。
試合が始まったら自分の判断で。
それは自発的なよい面もありますが、逆にマネジメントが弱いという特徴があります。
管理職の方が『どうやってマネジメントすればいいんだろうか?』と悩む。あまりマネジメントの訓練を受けてないかなという印象を受けました。」
上場企業では、『部下をいかにモチベートするか』『どうコーチングするか』といったことを一生懸命学んでいます。組織作りについても同様です。
介護・福祉業界では、その組織作りが弱い。現場優位なのに、逆にそれが現場を苦しめてしまうこともある。
もっとも多い相談は自立支援介護の導入・教育
コンサルティングの相談の中でもっとも多い『自立支援介護』とは、どういったものでしょうか?
「自立支援介護については、専門職の方の中で見解が分かれるところでもあります。
高齢者の方は、もともと社会的にも精神的にも自立していて、もちろん身体的にも自立しています。そんな色々な活躍をしてきた方が、何かの疾患の原因で、たとえば脳梗塞で倒れられたとしましょう。病院に入院し、一命はとりとめた。しばらく絶対安静で入院して、退院してきた時には、寝たきりになっていた状況があるとします。
ここで失ったのは身体的自立だけです。
なので、介護を通してもう一度身体的自立を取り戻そう。
というのがおよそ20年前にあった自立支援介護の趣旨です。
ところが、いつの間にかいろいろな考えが出てきて、それぞれのお考えの元に施設運営がされていました。
そんな中、2年前に未来投資会議というもっとも影響力のある会議でいろいろな議論の末、『身体的自立をもう一度取り戻す介護』を制度のど真ん中に入れるということに閣議決定されたのです。
身体的自立支援を推進しないと、経営的にもだんだん難しくなるという動きが始まっています。
その準備を今からしようという法人さんが目立ってきています。
今までやっていない身体的自立支援のためのケア手法を現場に取り入れる場合、マネジメントとの軋轢もあり、基本知識や理論を学ばなきゃいけない。
そのためには、どうしてもコンサルタントがコーチしていかないと、なかなか実現しない。
介護の現場では、すでにめいっぱい頑張っていて、それこそ戦っている状態。そこに何か新しいものを付け加えようとすると、反発は起こります。
新しいものを付け加える前に何かやめる作業を見つけて、業務を整理してからじゃないと、新しいものは入っていかない。
こういったことをコンサルタントが支援していきます。」
これまでの自立支援介護のジレンマ
「自立支援介護とは、重度の要介護5の方が出来るだけ4になったり3や2になったりという風に継続化するためのものです。
今まではそれをしてしまうと、施設に入ってくる介護報酬が下がってしまった。
介護・福祉事業に携わっていないければご存じない方も多いと思うのですが、重度であればあるほど、施設に入ってくるお金は高いんですよね。で良くなってもらうと下がっちゃうっていう。
このジレンマでなかなか自立支援介護は進みませんでした。
ところが、今回閣議決定され、軽度に改善すばするほど介護報酬が入ってくるように変わることになりました。『革命的な』と言っていいほどの変化です。」
この閣議決定で福祉・介護を本来あるべき姿に戻すことができます。介護度が軽度に改善されればご本人もご家族も、介護現場も喜ぶといった、本来あるべき姿になると期待しています。
自立支援介護の日本と世界との差
自立支援介護のおかげで、仮に歩けるようになっていたら・・・
今の日本では、介護の現場も、ひょっとしたらご家族も『危険!危険!』とリスクの方を考えてしまう。
海外での自立支援介護はどのようになっているのでしょうか?
「ある会社の愛知県の650人くらいの職員さんの代表取締役の女性の方からお話をうかがったところ、お父さんの後を継いで社長になる前は、15年間アメリカで発達障害の支援の仕事をしていたそうなんです。
その方が、日本に帰ってきて高齢者福祉に携わった時に、すごく違和感があったとおっしゃっていました。
アメリカでは身体的自立の再獲得は当たり前です。なぜかというと、それが権利擁護だから。
ところが、日本では、とにかく寝かせっきり。
『もう一度口から食べられるようになるためにどうするか』とか『オムツをつけ他人様に交換されている状態が尊厳を汚してる』とは考えない人が多い、という違和感があったそうです。
今回の自立支援介護で、ようやく胸がスッキリした、とおっしゃっていました。」
欧米・北欧と異なり、権利擁護の感覚は日本人にとっては不得意科目かもしれません。
個の権利よりも全体の調和を優先しがちな日本人も、時には権利を主張することが重要です。
まとめ
未来投資会議での決定により大きな変化の起こるこれからの介護・福祉事業。
介護・福祉事業経営者は古くからある課題を解決し、新たな介護を導入する必要が出てきました。
新たな視点で課題解決を支援してくれるコンサルタント。介護・福祉事業経営者の強い味方です。
ポスト・ヒューマン・ジャパン株式会社の代表取締役 谷本正徳さんのラジオ出演の様子はYouTubeでも配信しています。ぜひご覧ください。
「吉川美津子のくらサポラジオ ゲスト:谷本正徳様 第76回2019.3.17」
「ポスト・ヒューマン・ジャパン株式会社」については、シニアの暮らし応援ポータルサイト「楽々くらサポ®︎」サイト内事業者ページでもご紹介しています。ぜひご覧ください。