介護・障害経営戦略
~人材難の正体は何か?人材戦略は王道で正面突破を!~

介護福祉領域の人材難が叫ばれて久しい。実際に現場の人手不足感は非常に強く、事業展開の最大の障壁とも言える状況だ。

今回はその正体を紐解き、王道の戦略を描く。

第1の手は「採用」にあらず!

既存事業所で、いまなぜ人材採用が必要なのか?それは退職者が出たから。退職者がいなければ採用は必要ない。

どんなに従業員満足の高い事業所も、一定数の退職者はやむを得ない。しかし多くの事業所では職場に不満を持って退職する人がいて、その人は自社にとって好ましくない情報を、誇張ぎみに他者に伝えてしまう。狭い業界の中でこれを繰り返すと、地域の福祉人材市場はレッドオーシャンになる。

腹を括って「退職やむなし」で対策を進める状況は別として、多くの退職者を出しながら新規採用を目指すのは、大量出血しながら輸血し続ける行為と同じ。人材戦略の一丁目1番地は、既存スタッフが働きがいを感じる職場づくり。それ無くして、成功には辿り着けない。

数値は嘘をつく!逆説の介護福祉人材戦略

採用戦略を練り実行する上で重要なのは継続力。一度に結果は出ないが、正しい対策を継続すれば、必ず良い結果にたどり着く。「必ず求職者はいる!」と言う事実。それを信じて正しい対策を継続する以外に、成功への道はない。

なぜそう言い切れるのか?答えは簡単!福祉現場で働く人は年々退職しやすくなっている。施設の数も右肩上がりに増加する。施設が増え、そこで働く人が辞めやすくなっているのだから、介護福祉業界の転職市場は爆発的に拡大してきているのである。

さらに好材料は、新規就業者も増え続けている点。介護従事者は直近10年で1.4倍、18年で3倍に急増した。これだけ大量に増加している業界が、他にあるだろうか?

少し理論の飛躍もあるが、まずはこの事実を前向きに捉え、可能性を見出すことが重要だ。

進化する求職者と旧態依然の事業者

ではなぜ自社は、求職者とマッチングできないのか?それは求職手法が変化したからだ。

例えばハローワーク。求人を出してもほとんど紹介は無い。インターネットから簡単に検索できるようになったのだから当然だ。直接紹介は減ったが、ハローワーク求人情報を見ている人は飛躍的に増えている。転職フェアも同じこと。リアルに顔を合わせる場所に足を運ぶ人は、今後も減り続けるだろう。

このような変化の中で、私たちは適切な方法で、求められる情報を発信できているだろうか?発信してもすぐには届かないが、発信していないと永遠に繋がらない。基礎的な情報を整備することは非常に重要で、それを求職者に届けることは別の作業と考える必要がある。

求人ツールの役割は変化した

御社の周辺地域の介護福祉従事者で、御社を知らない人はいないだろう。そして御社が求人募集中であろうことは、誰でも想像がつく。だから求人誌やチラシなどで「求人募集」と表現しても「そうでしょうね」と思われるだけだ。

紙媒体から直接求人応募を得ることは非常に困難であり、自社HPに誘導するためのツールと割り切る必要がある。インパクトある簡潔な表現で興味を持ってもらい、HPを見てもらえれば成功である。

HPを見ずして応募する人はいない。HPは3本柱(会社情報、事業紹介、求人情報)で構成しよう。求人情報は人にクローズアップし、魅力を盛り込もう。できれば動画も活用したい。どんな人に興味を持ってもらいたいかを絞り込み、それに合わせた表現をする。

誰も知らない自社の魅力

先ほど御社を知らない人はいないと書いた。では御社の何を知っているのか?それは、嘘か本当か判らない良くない噂話を聞いているに過ぎない。HPでは本物の魅力を、リアルな声として盛り込もう。理念を掲げる以上に、理念に即した実態を見せることが重要である。

何より重要なのは、仕事に真っすぐに取り組め、お客様のお役に立つ喜びを味わえ、自己の成長につながる職場環境づくりであることは、忘れてはならない。

そして福利厚生は魅力満載のはずだ。施設では互いに譲り合って職場を守ってくれている。学校行事は優先的に休日にするなど、暗黙のルールが多数ある。それを「〇〇優先休暇制度」と命名して表現する。とても職員思いの職場であると伝わるはずだ。また処遇改善などの財源を活用して、記念日手当や帰省費用など諸手当を工夫し好評を得ている例もある。

待遇面は、地域や年齢によっては決して他産業に引けは取らない。給与月額だけで表現する必要はない。賞与も含めた年収例表記はわかりやすい。退職金制度の充実をPRする方法もある。

応募しづらい壁は自社が作っていた

ここまで整えても、まだ直接応募には繋がらない。何も接点のない段階から、いきなり求人応募の連絡をするには勇気がいる。例えばLINEで気軽に問い合わせや質問をできたり、見学や相談会を開催するなど、気軽な接点づくりが不可欠となる。

求人活動は、各ステップの掛け算である。応募者数はそのままでも、採用者を増やすことは可能だ。次のステップに進む率の低いところを改善する、または得意なところを伸ばせば良い。

電話対応や返信はタイムリーか?見学や面接で応募者の思いを聞き出し尊重しているか?新人受け入れ体制ができているか?等々。費用を使わず採用者を増やす工夫は、実は数多くある。

まとめ

人材戦略は、取り組めば答えが出るからわかりやすい。そして成果を生む方法は必ず存在する。

今回触れた内容以外にも、組織構築、マネジメントサイクル構築、ジェネレーションギャップの理解、マイノリティ支援など、お伝えしたい事は数多い。ぜひセミナーの場で、ご縁をいただければと思う。

人材の獲得・定着・育成を実現できれば、介護福祉事業の成長戦略を大きく切り拓くことができる。コロナショックによるワークシフトの受け皿として、社会的な期待が寄せられている今こそが、その好機である。

地元地域での人材採用は必ず成功できる。その事実を信じ行動することから、全てがはじまる。

日本福祉大学社会福祉学部卒業。社会福祉士。 20代から飲食チェーンの会社に勤務。35歳を機に福祉事業での起業を目指して、介護の現場に従事。新規社会福祉法人の設立に参画し理事に就任。特別養護老人ホームなど5事業所の統括施設長として新規開設に携わる。地域で頑張る小さな介護事業所を支えたいとの思いから独立開業。福祉事業コンサルとして、支援を続けている。 http://kurashi-lab.co.jp/

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