医療・介護事業者が注目すべき、 障害福祉事業の近未来

4月から実施された障がい福祉事業の報酬改定は、今後の方向性をわかりやすく示す内容となった。

医療・介護事業者にとって、地域共生社会実現のためのサービス網構築に不可欠な障がい福祉事業。

今回は、その将来像を理解し、地域ニーズにマッチした事業展開を考える。

発達・軽度知的障がい者向けサービス

この対象者に向けた放課後デイやグループホーム等の事業所は、近年大幅に増加した。

理由は対象者数が多く、今後も増加傾向にあるからだ。事業開始時の利用者獲得が比較的容易で、参入しやすい。特に最近は、この分野への異業種参入を促す情報発信が多くなされ、注目を集めている。

しかし今後の方向性は、手厚い支援の継続ではなく、就労支援を中心にして、社会的自立に導くことだ。今回の報酬改定でも、就労移行支援、就労継続支援の各事業は、支援実績に応じた報酬の方向性が顕著となった。

ご承知の通り、放課後デイなど、全国にサービスが行き渡った事業では、人員基準の厳格化などが実施され始めた。サービス量の供給フェーズから、サービス質専門化のフェーズへと移っている。

今後の報酬改定でも、就労への支援策を強化しながら、福祉的ケアは効率化・適正化が進んでいく。

障がい福祉事業の経営母体

障がい福祉事業の経営母体について、法人格や規模についての全国調査は、私の知る限り、あまり行われていない。しかし感覚的には、比較的規模が小さく、障がい福祉事業に特化した法人が多く、地域の中で懸命に障がい者の生活を支えてきた。

逆にいうと、医療的な専門性の高い法人や、介護・子育てなど幅広い事業を展開する法人は、まだ少数派と言える。障がい福祉事業を展開する医療法人はごく少数であり、介護・子育て・障がい事業などトータルで福祉サービスを提供する社会福祉法人も、非常に少ない。これは障がい福祉事業が社会保障的役割が強く、産業化した歴史が浅いことに起因する。

このことが、安定的なサービス提供を実現し、福祉的支援の専門性を深める要因になった一方で、医療的専門性の不足につながった面もある。ともすれば、障がい福祉事業が特殊領域と見られる場合すらある。

いま地域共生化の流れの中で、医療・介護・障がいのトータルサービス化に、全国各地の先進的法人が取り組んでおり、この流れは、今後ますます大きくなっていく。

医療的ケアの不足

今回の報酬改定で特に強化された事柄は、医療的ケア体制への評価と、重度者対応への報酬重点化であった。

医療的ケアニーズのある障がい者は、全体数は少数ではあるが、増加の一途を辿っている。そして、医療的ケアに対応する支援サービスが非常に少なく、今もなお家族や近親者の献身的な対応によって支えられており、当事者団体は、現状の切実さを情報発信している。

いま多くの地域でサービスが不足している原因は、対象者の数が多くない事だけでなく、医療的専門性を持ったサービス提供者が少ないことが挙げられる。これは逆にいうと、医療的専門性を持った支援サービスを、多くの当事者が待ち望んでいる現状であると言える。

 

重度・重複障がい者への対応不足

各市区町村が策定している障害福祉計画を見ていただきたい。地域住民へのニーズ調査で、多くの住民が訴えているのは、サービス量の不足、サービス提供者の専門性の不足、個別の状況に応じた対応の柔軟性、将来の生活への不安などが挙げられる。

この結果から見えるのは、重度の障がい、重複障がいのある人への専門的支援の不足、将来にわたるトータルサポート体制の不足である。全国統計から見える事実として、軽度者向けサービスは大きく増加している一方、中重度者向けサービスは少しずつ減少している。中重度障がい者の数は増えているのに。

この点を考え合わせると、介護事業を展開する法人が障がい福祉サービスもトータルで提供する事で、障がい当事者や家族にとっては、将来にわたる大きな安心を得ることになる。これは介護事業者の強みである。

今回の報酬改定で、中重度者への支援に対しての報酬重点化が打ち出され、今後もその方向性が続いていく予定である。

危険なブルーオーシャン戦略

このように、障がい福祉事業は医療対応・中重度者対応のサービスを中心に、まだまだ不足している地域が非常に多い。

一方では、軽度者向けのサービスは供給量が増えすぎている地域もある。仮にまだ不足している地域であっても、近い将来には利用が絞り込まれる可能性がある領域でもある。

新たな事業領域として、ブルーオーシャン戦略発想で障がい福祉事業に参入する場合、サービス内容は軽度者向けになり、他社との競合になる可能性が高いため、私はこのような発想での参入はすべきでないと考えている。

今まで、ブルーオーシャン戦略で介護事業に参入した多くの事業者が、他社競合に苦しんできた状況と同じ事を繰り返すべきではない。思い起こせばこの20年、介護事業を展開してきた事業者にとっては、サービス供給未整備地域や高収益事業を見つけて事業創設をする「ブルーオーシャン戦略発想」が定着した時期があった。しかしいま振り返ると、ブルーオーシャン市場はあっという間にレッドオーシャンになり、しかも後発事業者の方が、利用者に好まれるサービス内容を構築する悪循環が生まれた。そして高収益と思われた事業は、6年後、2回目の報酬改定を迎える頃には収益性が大きく低下し、当初の事業計画とはかけ離れた収益体質になってしまう。

このようにブルーオーシャン戦略は、短期間で競合激化と収益低下を招き、「介護事業6年寿命説」とも言える現象を起こしてきた。私たちは、障がい福祉事業で、これを繰り返してはならないのである。

まとめ

私たちが取り組むべきことは、既存の医療や介護サービスの専門性を生かして、その周辺にある障がい福祉事業領域に進出することで、相乗効果を生み出すことである。専門性の高い障がい福祉サービスを提供できると同時に、既存事業の収益性を高めることにも繋がるからだ。そして更に、地域住民との信頼関係を深める事になる。

またこの方向性は、地域の中で既存の障がい福祉事業者がカバーしきれなかった領域に進出することになり、共存共栄の協力関係作りでもある。対象者数が限られる障がい福祉事業では、周辺事業者とこのような関係を作ることで、長く安定した事業運営を実現できる。

地域内で貴法人の存在意義を見つめ直し、強みを生かしながら、より幅広い年齢層の住民の福祉ニーズを支えるためのサービス網を構築すること。それが障がい福祉事業創設の目的である。

川畑 誠志

日本福祉大学社会福祉学部卒業。社会福祉士。 20代から飲食チェーンの会社に勤務。35歳を機に福祉事業での起業を目指して、介護の現場に従事。新規社会福祉法人の設立に参画し理事に就任。特別養護老人ホームなど5事業所の統括施設長として新規開設に携わる。地域で頑張る小さな介護事業所を支えたいとの思いから独立開業。福祉事業コンサルとして、支援を続けている。 http://kurashi-lab.co.jp/

川畑 誠志の最新記事

人気のコラム