介護福祉事業の窮境分析と再建支援における視座(前編)

超高齢社会の到来で、介護福祉事業は利用ニーズが増大し、事業所数は大幅に増加してきた。
しかし、介護を主たる事業とする社会福祉法人の赤字決算は急増、収益性は低下し、介護事業の経営環境は急激に厳しくなった。

この記事では、介護福祉事業の厳しい現状と今後の介護福祉事業の事業展開(前編)と、事業所の現状分析のポイントと事業改善の勘所(後編)について事業再生・事業継承支援専門家による解説を紹介する。(「銀行実務」掲載コラム

銀行実務4月号

法人数は急増したが3分の1が「赤字」

現在、介護事業を行う法人数は全国約15万法人。
2000年の介護保険法創設以来、約10万増加した。
そのうち社会福祉法人、医療法人等が約7万。
それに対して営利法人等が約8万法人。
営利法人は2000年以降の事業開始がほとんどで、20年間で急拡大した。

しかし近年、介護を主たる事業とする社会福祉法人の赤字決算が急増し、2018年度は全体の約1/3に上る。
営利法人の赤字割合は半数以上と予測も出ている。
特に直近約5年間で、介護事業の経営環境は急激に厳しくなった。

2018年度、独立行政法人福祉医療機構の貸出先におけるリスク管理債権比率は6.01%。同年の全銀協集計による全産業平均(1.1%)の約6倍に上った。

入居率80%以上のサ高住は3県だけ

国家財政の介護給付費は2000年度の3.6兆円から、2018年度には10.6兆円に急増した。
高齢者の数は現在も増加を続け、要介護者の数も増え続けている。
しかしそれ以上のペースで介護事業所が増加し、現在は過当競争の時代に入っている。
地域間格差もあるが、サービス不足感が大きいのは首都圏のごく一部の地域に限られ、その他の地方(地方大都市圏も含む)は、ほとんどの地域で施設供給過剰になっている。

入居施設(シニア住宅を含む)の居室数は、2017年の時点で約190万室。
対して施設入居が必要な中重度の要介護高齢者数は約112万人。
施設過剰のため、シニア住宅を中心に、比較的軽度の要介護者の入居が相当数に上る。
必要以上の施設整備、軽度者への過剰なサービス提供が、社会保障費の増大につながっている側面すら感じられる。

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)のビジネスモデルは、入居率80%が損益分岐点と言われるが、都道府県別の入居率集計で、平均入居率が80%を超える地域は、3県だけ(2018年度)である。

経営環境の厳しさは3つの「難」に集約される

介護事業者を取り巻く現在の経営環境の厳しさは、下記の3点に集約される。

① 顧客確保難
まず、施設及びサービスの供給が過剰となったために、顧客の確保が難しくなったことが挙げられる。
都市部では、要介護者の増加数以上に事業所の数が増えた。
一方、郊外では人口が減少し高齢化率が上昇したが、要介護者の実数はあまり増えていない。

地方自治体が策定する地域福祉計画や介護保険事業計画では介護サービスニーズの増加傾向が示され、事業者はそれを根拠としてサービスを増やすが、現実のニーズは予測を下回るケースが非常に多い。
また介護保険法の改正により、業種によっては介護状態が軽度の人が利用できなくなる制度改正が行われ、利用対象者自体の減少も大きく影響している。

② 人材確保難
次に挙げられるのが、人材確保の困難さである。
人員不足による施設の一部閉鎖を余儀なくされた事業所は、全体の13%。一部閉鎖した状態で収支を整えることは、ほぼ不可能であり影響は甚大である。
正社員1人獲得に要する求人費用の全国平均は50万〜80万円。それ以外にも人材紹介や人材派遣を活用しており、費用総額は膨大になっている。

給与額の高騰、処遇改善加算に関連した経費の増大。
産休・育休・介護休暇などの対象経費が膨らんでいる等、人件費の増加要因は多い。
売上に占める人件費率が適正水準を大きく上回る事業所が多く、今後も増加傾向となっている。

③ 利益確保難
介護保険報酬は3年ごとに見直され、その度に適正化(主に報酬切り下げ)が行われてきた。
これが、利益確保「難」につながっている。

保険事業では当然のことだが、全国にサービスが行き渡れば、報酬は適正化される。
また専門職の配置や専門的なサービス内容に進化しなければ、基本報酬は次第に下がっていく。
事業開始当初と比べ、報酬単価が大きく減少している業種がほとんどである。

福祉ニーズを幅広く展開する傾向も

これらの理由により、2009年と2018年の全国平均利益率を比較すると、特別養護老人ホームは約12%から1.8%へ。
デイサービスは約13%から3.3%など、ほぼ全ての業種で利益率が低下し、業界全体の収益性は急激に低下している。

今後の報酬改定の流れとしては、一部の利益率の高い業種は、平均3%程度になるまで減額方向にある。
全体的な流れとしては、報酬総額は現状維持しながら内容が変化。
具体的には、基本報酬が下がりながら専門特化した加算が増え、サービスの効果制に対しての評価が報酬に反映される等の変化が起きてくる。

地域共生社会実現の目標の下、各種の介護サービスを総合的に提供できる体制整備が大きな方向性となる。
また障がい福祉や子育て支援など、地域住民の幅広い福祉ニーズに対応できる事業展開もトレンドになり始めている。

高齢者を支える意義深い事業として

超高齢社会の到来で、介護福祉事業は利用ニーズが増大し、事業所数は大幅に増加してきた。
だが、収益性が低下し、厳しい経営環境にある。

今回は介護福祉事業の厳しい現状について概観したが、介護保険事業の本質は、高齢者のお役に立ち、社会を支える、意義深い事業である。
そして何より、適正に運営すれば適正な利益を確保できるビジネスモデルだ。
介護福祉事業は、日本社会を支える貴重な社会資源であり、介護事業者の健全な維持成長を促進することの意義は大きい。

次回は、事業所の現状分析のポイントや、業績改善の勘所について触れ、介護事業所の再建の可能性を探りたい。

介護福祉事業の窮境分析と再建支援における視座(後編)」に続く

川畑 誠志

日本福祉大学社会福祉学部卒業。社会福祉士。 20代から飲食チェーンの会社に勤務。35歳を機に福祉事業での起業を目指して、介護の現場に従事。新規社会福祉法人の設立に参画し理事に就任。特別養護老人ホームなど5事業所の統括施設長として新規開設に携わる。地域で頑張る小さな介護事業所を支えたいとの思いから独立開業。福祉事業コンサルとして、支援を続けている。 http://kurashi-lab.co.jp/

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