介護福祉事業の窮境分析と再建支援における視座(後編)

介護・福祉は本来収益が安定した事業
介護福祉事業の経営環境は、様々な要因により厳しさを増しているが、本来的には安定した収益性の事業である。

この記事では、「介護福祉事業の厳しい現状と今後の介護福祉事業の事業展開(前編)」に続き、事業所の現状分析のポイントと事業改善の勘所について事業再生・事業継承支援専門家による解説を紹介する。(「銀行実務」掲載コラム

銀行実務5月号

事業所別の経営分析

①売上最大化と、経営効率のバランス

介護福祉事業には、施設基準と人員基準がある。
既存の施設基準の中で客数を最大化しようとすれば人員の追加配置が必要だ。
また、客単価を最大化する手法は、要介護度の重度化と加算算定があり、重度化対応には人員の追加、加算算定には専門職員の配置等が必要になる。
いずれも、人件費の増大による経営効率のバランスを見る必要がある。

他に、以下の点を確認する。

・入居施設のベッド稼働率の現状と、向上の工夫。
・通所系・訪問系は利用登録者数と利用率。キャンセル減少と利用率向上の努力。
・利用中止者数と中止原因の分析、新規利用者数と利用動機の把握。

②人件費率の適正化

売り上げに占める人件費率が過剰となり、収益を圧迫している事業所は非常に多い。
一方、現場職員は日々利用者と向き合い、より良いケアを目指している。

十分な人員数を配置していても、現場感覚では常に人手不足を感じている。
人員基準通りでは運営が困難な場合が多く、適正人員数の見極めは難しい。
時間帯の業務内容を把握し、基準シフトを明確にする他、作業の効率を上げるために、業務内容の見直しも重要となる。

他に、以下の点を確認する。

・正社員の過剰配置見直し、非常勤スタッフ、登録スタッフの活用。
・人材獲得経費(求人、人材紹介、派遣)の把握と、費用対効果の確認。
・退職者数の把握と原因分析。
・会議、ミーティング、研修会、委員会の開催状況。
・間接人件費(事務、給食、施設維持他)の適正化。

③諸経費の再点検

多くに事業所は、経費項目を個別に適正管理できていない。
担当者を決め、定期的に確認管理を行うことで、効果が得られるといえよう。

金額が大きく、削減できる可能性のある項目は以下の通り。

・電気、ガスの契約先、契約内容、使用量管理の方法。
・消耗品(介護用品、事務用品)の定期的単価確認(見積り合わせ等)。在庫管理。
・施設維持管理契約( エレベーター、自動ドア、エアコン、配電設備など)。
・食材の仕入れ確認(単価、数量、仕入れ先)。
・事業保険、車両保険、火災保険の定期的な見積り確認
・ゴミ処理、浄化槽管理、排水設備、ボイラーメンテナンス

介護事業所の再建支援の「勘所」とは

介護福祉事業は、事業としての収益性追求に加え、公益性のある福祉事業(社会資源)の側面を併せ持つ。
この業界で働く職員は福祉の専門職のため、働く動機はサービスの質の向上であり、収益性の追求に関心が薄い場合がある。
これが経営者層と現場スタッフの間で対立点になる。

現場の理解と協力なくして収益性の向上は実現できず、いかに事業所全体で取り組むかが、成否の最大の鍵となる。

①売上最大化と適性利益確保の必要性の理解

「数値管理=無限の利益追求」という誤解から脱却し、「サービス永続性=適性利益」「サービス質の評価=客数」「職員の処遇改善=収益改善」を周知し、全職員の同意のもと事業再建に取り組まなければ結果は得られない。

②人件費率の適正化手法

「現状維持=報酬減」の報酬改定が続き、職員数が以前のまま報酬が下がり、人件費率が上昇している。
これでは、現場に人員削減の協力を得ることは不可能に近く、逆に人員増を切望している。

非常勤職員の有効活用、各時間帯の業務量に応じた人員管理、セカンドキャリアの活用、業務の効率化、間接人件費の適正化など、事業所の現状に応じた対応が必要となる。

顧客獲得の努力

既存の関係先との信頼関係に頼った顧客獲得が中心で、積極的な新規顧客獲得の動きは好まない傾向がある。
また、原則として、利用先選択は本人の自由契約であり、事業者は正当な理由なく顧客の選択をしてはならない。
自事業所に適した顧客がどこにいるかを見極めて効率よくアプローチし、強み、特徴、専門性をわかりやすく表現することで、顧客獲得につなげたい。

ブランディングの重要性

また、顧客獲得と職員採用の両面で、PR面において、WEB等を活用したブランディングも求められよう。
Web活用は、効果が少ないと思われがちだが、利用対象となる高齢者や家族がWebから情報収集を試みても十分な情報が無いことが多い。
様々な方法を活用して、積極的に情報発信する努力が、今後ますます重要となる。

介護業界の将来的な展望とは

介護・福祉においては「地域包括ケア」から「地域共生社会」の時代に移り、様々なニーズを総合的、複合的に対応できるサービス提供が求められる時代に入った。
各種サービスを一括した提供にとどまらず、障害者対応や子育て支援等との連携も求められる。

 大規模法人は、独自に総合的サービス提供を目指した対策が必要だが、小規模な法人は独自展開には限界がある。
逆に得意分野に特化し、他法人との連携を有利に広げる方向性への模索が重要となる。

 介護福祉事業の歴史は、2000年の制度創設以来20年と日が浅く、「制度創設期」から「変革期」へと移った段階であろう。
今後10年で「安定期」となるには、科学的エビデンスを持って専門化するとともに、事業所自体もまた時代の流れに応じた変化と進化が必要である。

 

川畑 誠志

日本福祉大学社会福祉学部卒業。社会福祉士。 20代から飲食チェーンの会社に勤務。35歳を機に福祉事業での起業を目指して、介護の現場に従事。新規社会福祉法人の設立に参画し理事に就任。特別養護老人ホームなど5事業所の統括施設長として新規開設に携わる。地域で頑張る小さな介護事業所を支えたいとの思いから独立開業。福祉事業コンサルとして、支援を続けている。 http://kurashi-lab.co.jp/

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