福祉事業経営戦略の大転換時代が幕を開ける

福祉事業経営戦略の大転換時代をテーマに、介護・障害事業経営幹部の皆様に将来に向けた戦略を考えるヒントとなる情報や考察をお届けいたします。

今回は特に幅広い話題を盛り込んでまいります。

 

報酬改定のポイント

今年は、介護保険及び障がい者支援制度の報酬改定の年。皆様は今まさに、その対応を急いでいると思う。私自身も福祉事業経営者の一人として、知恵をしぼる日々である。
皆様は報酬改定にあたり、どのような情報を収集しているであろうか?私は「緊急度」と「重要度」の2つのポイントから見る。

緊急度とは、改定になった報酬制度にどう対応し、いかにスムーズに収益を確保していくか。次の改訂まで36ヶ月しかない訳だから、1ヶ月でも早く対応することが大切である。
ただ、経営者として、最も大切だと考えているのは重要度の視点。今回の改定内容の方向性は、6〜3年前から議論されて形になったもの。決して突如として現れた変化ではない。

であれば、今回の改定日向けた議論の中で何が話され、将来に向けてどのような方向性が示されたかを知ることで、3〜6年後の未来を見通すことができる。
長期的な視点で方向性を見通すことができれば、自法人を今後どの方向に導くことが正しいのかが見えてくる。

厳しさ続く経営環境

先日、令和元年度社会福祉法人経営状況調査が発表された(表参照)。介護保険事業を主たる法人は約1/3が赤字であった。
この割合は近年急激に増加しており、業界全体の経営環境の厳しさが現れている。

また福祉医療機構の貸し出し債権のうち、リスク管理債権の比率は3.7%にのぼる。
これは全国銀行協会の全産業合計1.2%の実に3倍以上。リーマンショック後の不況の中であっても2.4%であったことに比べ、いかに高い比率であるかわかる。

福祉事業経営は、セーフティネットとしての社会的役割を果たしながら、収益を整えて利益を生むという2面性を持つ。
非常に残念であるが、収益性のバランスが崩れ始めていると言える。

そして近年、事業閉鎖や民間事業者の倒産が急増している。社会福祉法人の経営合併は年間20件前後実施されている。
そのほとんどは救済的な合併である。
この件数は今後大幅に増加すると予想される。今の状況が続けば、全国2000法人が経営不安に至る可能性を有していると、私は試算している。

厳しさの原因分析

一般的に、経営上の最大の意思決定は「値決め」であると言われる。
しかし福祉事業は制度事業であるため、値決めは行政が行う。
しかも3年に1度、制度と報酬が見直され、発表から2ヶ月後には実施される。

制度事業は安定的と思われがちだが、実態は、常に時代の変化に順応しながら、サービスの質の向上努力と、柔軟でスピーディーな変化対応力を求められる。

そして現在の経営環境はいくつかの構造的課題を抱える。
人材確保難、経費増大難、顧客確保難、報酬減少難etc、まさに、“多難”である。

しかし、厳しい環境下にあっても、福祉事業の存在意義は大きく、その役割は尊い。福祉事業者は地域住民から信頼され、期待され、尊敬されている。
私たちが地域の中で果たす役割が、今後益々大きくなっていくのは確実である。

私たちは、将来に希望を持ち、将来を切り拓く経営戦略を持たなければならない。

経営戦略の大転換

例えば今、自法人が特養を経営しているとする。
事業対象者は要介護3〜5だから、全地域住民の1.5%だ。
デイサービスであれば要介護1〜5だから5%程度である。

しかし今後、高齢者支援と障がい者支援は一体化が進み、地域共生社会実現のための共生型サービスの提供が求められる。
私たちが提供している介護・障がいサービスは、全ての事業を「共生化」する以外の方向性は無い。

高齢者と障がい者の数は、全地域住民の40%近くにもなる。
私たちが地域の中で期待される役割は、今後非常に大きくなると言える。

今、私たち経営幹部がなすべきことは、目前に迫った時代の大転換に向けた準備である。
将来、自法人が地域で果たすべき大きな役割を明確化し、その実現に必要な事柄を具体化していく必要がある。
法人経営戦略を、柔軟に大胆に再点検し、積極的な将来戦略を描くべき時が来ていると言える。

福祉事業経営の5エッセンス

とはいえ、足元の経営環境は厳しく、経営体力が弱まってきている。
積極的な将来戦略を描く上で、現状の経営状態を改善することが、スタート地点となる。

具体的には別紙に掲げる「福祉事業経営の5エッセンス」に着手していくことで、将来戦略を切り拓いていく。

1番目は「既存事業収益改善」である。
制度事業は「ちゃんとやれば、ちゃんと利益が出る」はずである。
その“ちゃんとやる”が難しいのであるが。
とはいえ既存事業の価値を再評価し、収益性を最大化する必要がある。

私のご支援先では今期、既存事業所だけで前年収益12億から5%(6600万円)もの増収を達成する法人様がある。
正しく取り組めば、必ず結果が出ると私は確信している。

2番目は「助成金・補助金活用」。
周囲に先駆けて先進的な取り組みをしている法人様は、必ずと言って良いほど、補助金を最大限活用している。
福祉事業は補助金との親和性が高く、それありきと言える。
タイムリーな情報収集と、的確な申請・取得を実現することは非常に重要である。
諦めずに情報を探せば、思った以上に様々な補助制度が存在するものである。

3番目は人材開発。
人材採用は厳しさが増しているが、的確に取り組めば、必ずと言って良いほど結果は出る。
諦めずに取り組み続けることが必要だ。
そして採用以上に重要なのは、定着と育成の施策。
今現場で頑張っているスタッフを大切にせずして、人材戦略の成功はない。
退職者を出しながら新規採用を求めるのは、出血しながら輸血し続けると同然。
人材戦略のスタートは「止血」から。
つまり既存スタッフと向き合い、モチベートして、職場の活力を上げることだ。
これは決して“甘やかす”といった事ではなく、マネジメントサイクルを回して、働きがいを感じる職場を作る事で実現できる。

既存事業の足腰を強くし、人材が安定化すれば、前向きで意欲的な将来戦略が描けるようになる。
その具体策が4番目、地域共生社会実現のサービス網構築である。

そして、これら1〜4の好循環を実現すれば、誰もがワクワクする中長期経営戦略をリアルに描くことができるようになる。
この5点を順を追って取り組んでいくことで、この大転換の時代に半歩先駆けた取り組みを進めることができると考えている。

まとめ

今回は第1回目ということで、なるべく全体像を描こうとしたため、抽象的な話が中心となった。
次回以降、さらにブレイクダウンしながら、より具体的に、リアルな内容で描き進んでいきたいと思う。

介護・障がい事業の共生化は、今急速に注目を浴び始めており、支援依頼も急増している。

私が最初に申し上げるのは、ブルーオーシャン戦略による障がい福祉事業への進出は、高確率で失敗につながるということである。
参入障壁が低く、サービス対象者の多い領域に安易に進出すると、あっという間にレッドオーシャンになり、後発時業者に淘汰されていく。

自法人の理念と、地域で果たすべき役割に基づいたサービス網を構築すると、地域住民から信頼を得られ、強く安定的な事業に成長する。
それが、末長く発展的で安定した法人経営を実現するための正道であろうと考えている。

【福祉事業経営の5エッセンス】

既存事業収益改善
助成金・補助金活用
人材開発
地域共生社会実現
中長期経営戦略

川畑 誠志

日本福祉大学社会福祉学部卒業。社会福祉士。 20代から飲食チェーンの会社に勤務。35歳を機に福祉事業での起業を目指して、介護の現場に従事。新規社会福祉法人の設立に参画し理事に就任。特別養護老人ホームなど5事業所の統括施設長として新規開設に携わる。地域で頑張る小さな介護事業所を支えたいとの思いから独立開業。福祉事業コンサルとして、支援を続けている。 http://kurashi-lab.co.jp/

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