自立支援介護をテーマとした論考の6回目。
いよいよ佳境となります。
前回の「自立支援介護の導入議論が本格化⑤」では、夏からの制度動向の動きを確認するとともに、「自立支援介護」の制度導入の反対意見と課題を整理してお伝えしました。
今回から、その反対意見・課題に対する見解や対策について私見を述べていきたいと思います。
前回整理してお伝えした反対意見と課題は大きく2つの視点
1つは、自立支援介護に対する認識不足や、感情論での意見であり、議論に値しない反対意見
もう1つは、自立支援介護に対する理にかなった指摘であり、対応策を検討していくべき課題
まずは議論に値しない反対意見について、詳細を解説していきたいと思います。
自立支援介護に対する認識不足や、感情論での意見であり、議論に値しない反対意見
①竹内理論の悪しき実践事例の一部を捉えただけの反対意見
未来投資会議において安倍総理自ら「自立支援に軸足を置いた…介護でもパラダイムシフト(劇的な変化)を起こします」と宣言されたことからスタートしてきた自立支援介護の制度導入。
この未来投資会議における理論の支柱が国際医療福祉大学大学院の竹内孝仁先生が提唱する「竹内理論」であることはこのコラムの「自立支援介護の導入議論が本格化②」でもお伝えしている通りであります。
この竹内理論の中身についても同様に「自立支援介護の導入議論が本格化②」をご確認頂きたいと思いますが、従前より賛否両論が大変多いことは周知の事実であります。
竹内理論の賛否に対する中身を議論することはテーマ外でありますので控えたいと思いますが、否定や反対意見の多くは理論を全て理解した上で唱えている反対ではなく、理論に基づき実践している介護施設、介護事業所の一部で、理論を誤った理解、不十分な理解のまま実践しているケースが見られ、それらの事例を捉えて批評していることが散見されます。
そもそもの竹内理論の理解不十分なままの反対意見であり、限定的な事例のみを捉えた反対意見であり、議論する必要のある意見ではありません。
②竹内先生に対する個人的な感情に基づく反対意見
これは理論そのものの内容よりも、竹内先生個人に対して悪感情を持っている方々が、合わせて竹内理論を否定的に捉え、自立支援介護にも反対しており、感情論であり、全く議論する必要のある意見ではありません。
③官邸主導での政策に対する嫌悪感に基づく反対意見
1回目の論考「自立支援介護の導入議論が本格化①」において、自立支援介護の制度導入に至る議論のスタートから制度化に向けた動向を整理した際に伝えた通り、自立支援介護は、従来の社会保障制度、介護保険制度の改定の枠組みである社会保障審議会を中心とした議論、つまり厚生労働省と関係団体中心とした議論からの出発ではありません。
内閣官房、財務省を中心とする官邸主導でのトップダウンより議論が出発しており、政策の中身ではなく、政策プロセスへの感情的な嫌悪感から反対を唱える方も多く見られています。こちらも同様に感情論であり、議論をしていくべきことではありません。
④高齢者の自立を支援すること自体を良しとしないという見解
これは、ほとんど僅かな意見でありますが、そもそも「自立支援とは何か」を定義するうんぬんではなく、高齢者の自立を支援していく介護を行うこと自体を良しとしていないケースであります。
もちろん表だってそのような主張をすることはありませんが、本音では、「楽して事業を行いたい。」「努力してサービスの質を向上させることには関心がない」といった意見の方は隠れて存在しており、この意見は当然、議論の余地のなく賛成できることはなく、このような考え方で介護に携わっている方には、介護業界から即ご退場頂きたいということは申し述べるまでもありません。
以上がまず1つめの視点である議論に値しない反対意見に対する解説であります。
自立支援介護に対する理にかなった指摘であり、対応策を検討していくべき課題
続いて最も大切なことは「自立支援介護に対する理にかなった指摘であり、対応策を検討していくべき課題」についてであります。こちらは次回に論考は譲りたいと思いますが、前回同様にポイントのみ下記に列記して今回の末尾とさせて頂きます。
①人間が老いて死を迎えることは「自然の摂理」であり未来永劫改善することは出来ない。
・一時的な改善は見られても、最終的には衰えていくことに抗うことは出来ない。
・一時的な改善のみを評価し、重度ケアやターミナルケアなどのステージでのケアを評価しないのは不当である。
・短期的な時間軸での改善のみを評価することは好ましくない。
・社会保障財源への寄与についても短期的な改善のみでは、限定的な効果しか出ないのではないか。
②事業者が改善し易い利用者のみを選別するようになるではないか。(クリームスキミング)
・そもそも多くの事業者はインセンティブを付与しなくても高齢者の自立支援に向けた実践を行うものである。
・逆にインセンティブを求めて、改善し易い利用者を選別し、改善し難い利用者を断るような事業者が出てくるのではないか。
③要介護度の改善をアウトカム(結果)評価とすることを危惧する。
・要介護認定の認定精度には正確性を欠くケースも多く、そのような精度でインセンティブを付与することは好ましくない。
・要介護認定の指標はADL(日常生活動作)に基づく項目が多く、自立支援において最も大切なことは高齢者のQOL(生活の質)を高めることであり、ADL(日常生活動作)向上だけでインセンティブを付与することは好ましくない。
・インセンティブを求めて要介護度の改善を最優先にし、高齢者の意向を無視した、強制的な機能訓練などが行われる可能性がある。
④自立支援介護の実現は他職種連携によってはじめて可能となる。
・1介護事業所のみで自立支援が実現できるのではない。
・適切な医療との連携が行われてはじめて自立支援が実現できるのであり、介護事業所のみの成果ではない。
・在宅介護サービスの場合には、複数サービス・複数事業所が共同で介護にあたっているので、改善に対する貢献度を評価することが困難である。
次回、第7回目をお待ちください。