笑う門にはいい介護 「その人のために…」を止める!

私は今でこそ、4つの介護事業所の統括部長。介護等に関する講演・職員向け研修等の活動。本の出版(笑う門にはいい介護:諷詠社)をしていますが、振り返れば、母の介護地獄の日々がなければ、普通の介護士だったと思います。

私は母の介護が嫌で、精神的に辛い毎日、そして母を憎み続ける毎日が続きました。ところが、母の介護をして行く中で、「考え方」が変わり「笑顔追求」「笑顔第一主義」となりました。今回は、その考え方がいかに変わったかをお伝えします。

前回のコラム【笑う門にはいい介護~介護笑顔第一主義~(介護地獄編)】はこちらです→https://crasapo.net/column/laugh-care/

怒りの心理

私の母への虐待の言い訳ではありませんが、男性は女性に比べて、怒りやすい生き物です。

大昔、狩りの時代、男性は命をかけて獲物を捕まえていました。獲物を制圧するのです。
自分も死ぬという覚悟で狩りをしていました。

だから、自分を守る(死なない)ために、勝手にアドレナリン(別名:戦闘ホルモン)というホルモンが放出されて、戦いに備えていたのです。特に男性にとって「怒り」は、まさに戦い抜くための重要な武器だったのです。

さて、現在は狩りの時代ではないのですが、「自分を守る」という事は今も、昔もあります。
「自分を守る」というのは、自分の価値観、考え、命、家族、自分のモノ等多くが対象になります。
人は自分の大事なモノが脅かされる時、アドレナリンが出やすいのです。

「~するべき」は怒りの素!

介護場面においても、自分の時間は奪われ、自分の考えは通用せず、思ったようにならない事も多いです。
ある意味「自分を守る」ことが難しくなります。そんな時、アドレナリンが出てくるのです。

そこで知っておいて頂きたいことは、この「怒り」の時は、自分の価値観を押し付けるために怒っている場合がほとんどです。

つまり自分の「(相手は)~するべき」とか「(相手は)~であるべき」の考えを押し付けて、自分を守る(考え方を貫く)のです。

例えば、もっと頑張るべき!デイサービスに行くべき!時間通り寝るべき!今はご飯を食べるべき!もっとリハビリをするべき!等がそうです。

だから、介護中に相手が自分の価値観(~するべき)とかけ離れていたら(思い通りにならなかったら)ストレスを感じたり、怒りを覚えたりと態度に出てしまいます。

そしてドカン!と怒る時は、完全に自分の考えを押し付けようとしている時なのです。

虐待息子の私の変化!

さて、当時虐待息子の私は、母に毎日、酷い言葉を投げていましたが、ある日、母の日記を見つけ、目を通しました。

そこには、島根県から東京に出て行った私に関する事が面々と書いてありました。
「今日、学(私の事)から電話があった。元気そうだった。」とか
「お金がないと言っていた。なんとか作って送金をした。」とか
「頑張って欲しい」「応援しようと思う」等いろいろ書いてありました。

私は、その時、やっと気が付きました。

「母は好き好んで介護が必要な人間になったんじゃない!一番、俺を応援してくれてたの母親だったんだ!介護が必要な体になって、息子(私)を巻き込んで、一番つらい気持ちなのはこの母親だ!

そう考えた時、考えが変わりました。

母を受け入れよう!

自然と涙が出て来て、今までの、わたしの言動を恥じました。そして、感謝の気持ちが沸き起こってきたと同時に意識が変わりました。

「実は、おれが一番笑顔にしなければならないのは、目の前にいる母親だ!おれは今まで何をやってたんだ!人を笑わせたい、喜ばせたいと思いを強く向けるべき人は、まずは母親だ!」と思いました。

心に決めた!

「母親には死ねとかは言わない。出来ない事を押し付けない!優しくする!そして抱きしめよう!」これを意識し始めました。

そして私の39歳の誕生日、私は寝たきりの母のベッドの部屋に行き、

母に言いました。

「お母さん、本当に産んでくれてありがとう!今、人生が楽しい!これからは優しくするからな!これからもよろしくお願いします!」

と言いました。

まとめ:母のため!を止めた!

母に優しくしよう!と決めた時、何をしたか?

それは私の考えの押し付けを止めたのです。
私が「母のためだ!」という思いが強ければ強いほど怒りが強くなります。

そこで私は母親の立場に立って考えよう」にしました。「母のために!」は私の考えの押し付けです。
「母の立場に立つ」という考えは母の想いのサポートになります。

皆さん!いかがでしょうか?

「誰々のために」はやめて「誰々の立場に立つ」という考え!

押し付ける感覚は、相手にも自分にも、あまりいい事はありません。

介護はそもそも完璧になんてできません!人も自分の思い通りには動きません!だから「人の立場に立つ」 人に思いに寄り添うとはこういうことだと思います。

この考えが私の介護の基本となり、「笑う門にはいい介護」の言葉が生まれました。

日本福祉大学中退。元吉本興業芸人、在宅介護の地獄を経験後、介護の世界へ。デイサービス施設長時代に組織改革。就任1年2か月後に「日本一笑いのデイサービス」としてNHK始め計4回テレビ取材。著書:「笑う門にはいい介護」は宮根誠司の推薦本。現在、介護統括部長。全国で講演活動中。BSSラジオで介護情報発信中。介護福祉士、介護支援専門員、福祉住環境コーディネーター1級、介護アンガーマネジメントファシリテーター。

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