家族の介護問題。怒鳴る夫と怒鳴られる妻。介護との向き合い方を考える。

夫を介護している女性介護者と話をしていると、夫への意見(愚痴)がよく出てきます。

ただでさえ介護だけでも大変なのに、さらに夫の言動、態度によって跳ね上がるストレス。

今回のテーマは夫婦や家族の介護問題です。

特に介護が必要になった夫から、介護をする立場の妻への態度や言葉についての問題を取り上げます。

家族に向けられる「怒鳴り」

経験上ですが、要介護状態になった男性の三分の一くらいは怒鳴る人がいるように思います。
私が介護士だった時にも

「何をしとるんか!早くしろ!」
「もういい!もうこんなところ来ない!」
「もっとしっかり考えろ!」
などよく怒鳴られました。

これらの怒鳴りは、現場の女性職員にも容赦なく向けられます。
しかし、私や現場の職員は仕事上の話であり、仕事が終われば「怒鳴り」からは解放されます。

本当に厳しい「怒鳴り」は、家での「怒鳴り」であり、「怒鳴り」の標的は家族。
それも主に介護している女性(特に妻)に対しての「怒鳴り」です。

ここからは例を挙げて説明します。

<CASE1>

一代で大きな会社を創設した社長が、60代で脳梗塞を発症し半年で退院。
家に帰ってからは医師の指示には従わず、お酒やたばこを辞めませんでした。

そして60代後半には3回目の脳梗塞になり、ついに左半身麻痺となり車いす生活になりました。
そんな元社長を介護して、ストレスが溜まっている娘さんと奥さんが話をしてくれました。

 

その元社長は、とにかく怒る、でかい声で命令する。
そして口が悪い、家族を奴隷扱いするという訴えです。

「早く飯を出せ!お前ら追い出すぞ!こら!」
「わしの言うことが聞けなかったら家から出ていけ!」
などの言葉を毎日浴びていたらしいです。

病院でも待ち時間が長いと、待合室で受付に向かって暴言を吐いて怒鳴る。

医師に対しては「お前、やぶ医者め!早く治せ、高い給料もらっといて!」などなど。

ご家族としては、自分の家族なのだから優しくしたい気持ちはあるが、あまりに酷い事ばかり言うので介護がつらい。
一緒に生活していると「気がおかしくなりそうだ」と訴えていました。

 

私はこの元社長の介護をするご家族の話を聞いて、介護ストレスの核が見えて来ました。

介護する家族にとって一番辛かった事は、自分たちへの「感謝の言葉が全くない事」でした。

突然、自分が要介護者。その時に感じる気持ちとは

今度は元社長の立場に立って考えてみます。

自分は従業員を引っ張ってきたワンマン社長で、うまく行っていた事業と家族と共に歩んできた人生。

ところが突然、脳梗塞になり、まさかの要介護状態でまさかの排泄・風呂の介助を受ける立場になった。

元社長の心境として想像できるのは
怒り、悔しさ、みじめさ、無力感、不安。

この元社長はこれらの気持ちに打ち勝つ手段として、周囲に大きな声で怒鳴り散らして自分の存在というものを維持しようとしたのではないかと考えられます。

同じ介助を依頼するなら“お願い”ではなく、それまでの社長の威厳が維持できる“命令”という方法を取っていたとしても致し方ない気がしました。

怒鳴る要介護の夫を誇らしく思える奥さんの強さ

もうひとつ例をご紹介致します。
とても勝気で、性根の座った奥さんから聞いた話です。

<CASE2>

家族は夫に毎日怒鳴られ続け,、おびえながら介護をする毎日。
怒鳴られようが怒鳴られまいが、介護はしなければならないにもかかわらず容赦ない怒鳴り声が付いてくる。

在宅介護が始まった最初の一週間は、大きな声が近所に鳴り響くことを気にしていました。

しかしそのうちに近所に怒鳴り声が響こうが、気にならなくなってくる。

怒鳴り声が近所に聞こえることを気にしていたらこの家には住めない!

この怒鳴り声とも付き合っていくのだ!と開き直ったそうです。

 奥さんは「この人は好きでこんな体になったわけじゃない」とグッと耐えたそうです。

 年月が経ち、怒鳴り声にも慣れてきた。
うまくあしらえるようになった。
いちいち凹まなくなった。
この人はこんなもんだと思えるようになった。

逆に怒鳴らない時がある。
そんな時は言ってやる!
「なんで今日は怒鳴らないの?」と。

ある日、奥さんは自分がこう思ったことに気付いたそうです。

「怒鳴れ!大きい声で怒鳴れ!大きな声で怒鳴ってこそ私の夫。」
「いっそ、この怒鳴る夫を誇りに思ってみるか!」と。

その奥さんの後日談です。

ある日の朝、奥さんはいつものようにベッドで寝ている夫に声をかけました。
息をしていません、奥さんは冷静に対応が出来たそうです。

『もう駄目だな』と冷静に思う自分と、そんなことはない!急げば何とかなる!という自分。
しばらくして担当の医師が駆けつけて、そして死を告げられました。

 

奥さんは、息をしていない夫に向かい言い続けました。
「怒鳴れ!怒鳴れ!もう一回大きい声で怒鳴ってみてよ!」と。

この時「やっと夫は怒鳴ってナンボだった」と心から感じることが出来たそうです。

要介護者と介護者。どちらにも大切な介護と向き合う気持ち

ご紹介させて頂いた男性2人は、病気になるまで家族のために必死に仕事をしてきました。
しかし要介護状態になり、自分の事が思うように自分で出来ない状態になってしまった。

男性の要介護者が訴えたい気持ちは

「家族よ!こんな体になって迷惑をかける。本当にすまん。」
「俺の気持ちをわかってくれ!」
「俺のこの不自由さをわかってほしい!生きることがつらいんだ。」

こんな気持ちを素直に口に出せる要介護者は、中々いません。
口に出せないから余計イライラしてしまいます。

もちろん介護をする奥さんや、家族はわかっていると思います。
夫が好きでこんな体になったのではないと・・・。

しかし、24時間介護に向き合う中で、暴言や嫌な行動をされると、そういった気持ちは薄れてしまうのも事実。

 

CASE1では介護される側からの「感謝の言葉」が聞ければ、奥さんも娘さんも少し気持ちが楽になる事が出来たはずです。

また直接的な感謝の言葉ではなくても、いつもより怒鳴らない日があったり、いつもより落ち着いた行動をする時があったりすれば、介護する方もストレスが和らぐと思います。

CASE2では奥さんが夫の怒鳴る事に対して、開き直って夫や介護と向き合えたこと。
これが介護する側の考え方の変換です。

 

介護に対しての考え方は人それぞれですが、この記事で伝えたい事は考え方を少し変えて見る事で、夫の介護が少し楽に前向きに考えられるのではないかと言うことです。

中村 学

日本福祉大学中退。元吉本興業芸人、在宅介護の地獄を経験後、介護の世界へ。デイサービス施設長時代に組織改革。就任1年2か月後に「日本一笑いのデイサービス」としてNHK始め計4回テレビ取材。著書:「笑う門にはいい介護」は宮根誠司の推薦本。現在、介護統括部長。全国で講演活動中。BSSラジオで介護情報発信中。介護福祉士、介護支援専門員、福祉住環境コーディネーター1級、介護アンガーマネジメントファシリテーター。

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