会社の理念は「支える人を支える会社」。
設立3年目を迎えているケアラーサポート尾道合同会社(広島県尾道市)は、家族といったケアラーだけでなく、介護職員もサポート対象とし支援する事業を展開。
中村恵美代表に話を聞いた。
豊富な経験から得た気づき
中村代表の福祉に関する経歴は多岐に渡る。
高校卒業後、特別養護老人ホームで介護職に就くが、無資格だったため専門学校へ入学し、介護福祉士を取得。
精神障害・認知症ケアを専門とする老健の通所リハビリテーションで勤務をした後、卒業した専門学校から教員の誘いを受け非常勤職員として、訪問介護の傍ら教鞭をとり、後に専任教員となった。
「理念や歴史は語れても、何かしっくりこなかった」という中村代表。それは、かつての在宅の介護現場、家族との関わりの経験からだった。
入所施設は環境が整い、多職種によるケアを受けられるが、在宅では自宅環境、家族の在り方も多種多様。
「それらを踏まえたうえで、いかに介護・福祉の質の部分を伝えたらいいか。ジレンマになっていたんです」
教職経験を8年積み、医師会に入社した。
訪問介護ステーションのサービス提供責任者としてカンファレンス、介護計画、モニタリングや職員・関係職種との調整、年間研修計画などを担当したという。
「ここではさらに、ゴミ屋敷と言えるような自宅、人間らしさや生活感が感じられない現場など様々なケースに遭遇しました。ふつうに生活していては見えてこない“すぐ近くにあった現実”でした」
カンファレンスなどを通し、家族が抱える悩み、介護スタッフの思いのすれ違いにも気づいた。
「医療・介護従事者と家族が一斉に集う場では、家族が本当に話したいことを言えていないのではないかと感じることが多かった。
後々話を聞くと『実はオムツ交換をしたことがなく不安』などと、話してくれました」
そのような場合には、時間を割き、オムツ交換の仕方やコツを個別に教えた。家族にすべきことがあった。
利用者、家族から学んできたことを広めなければ…。
某企業で、介護福祉士実務者研修の主任専任教員として各書類の手続きから授業構成、教室運営、受講生からの相談業務等に携わった。
教室運営、受講生からの相談を通し、忙しさゆえ必要なことを教えてもらえないスタッフの存在、困っても相談できない介護現場があることを知った。
放置したままでは、介護職員の質、強いては介護業界全体の質が向上しない。
ニュースで流れる介護職員による高齢者への虐待もそんな”忙しさ“や”不満“の積み重ねが引き金になっているのではないか。
いつか私たちもケアを受ける側になる。
だからこそケアしてくれる人が育つ土壌をつくらなければ。
「介護従事者もケアラーとしてとらえ、支援する人たちを支援しようと決めたのです」
課題は何か。明確にして、現場の改善へ
中村代表が意識しているのが、現場の課題を明確にすることだ。
介護業界では様々な研修が行われ、職員が受講するものの、成果が現れないという経営者や研修担当者の悩みを聞いてきたという。
「悩みや課題を丁寧にヒアリングしてニーズを的確に捉え、具体的な研修や手段を提案します」
事業所の課題に合わせたカスタマイズ研修のほか、模擬試験も行う介護福祉士実務者研修も開講。
最近では新人研修やレベルアップ研修に最適な「レスクル」を開催。
レクリエーション支援研修で、体験・考察・発展の順を踏めるようプログラムを組んだものだという。
「福祉とは切り取って考えるとレクリエーション、コミュニケーションであり、『生活』とも言えるんです。レクに対して苦手意識を持つ介護士は多いのですが、それは本質的な意味を知らないから」
研修の内容を、いかに本人が主体的に捉えることができるか。
中村代表の目指す研修の“落とし込み”はここにある。
修了後の受講者アンケートで「考え方が変わった」との回答率は100%だったという。
さらに「歌唱指導してほしい」「リズム体操のやり方を知りたい」など、アンケートには具体的な要望が記入されていた。
「苦手意識から、〇〇が知りたいという、学びへの意欲に変わったということです。リクエストに応えられるよう、次回の研修を立案しています」
学ぶ意欲があれば人は変わることができる。
変化の輪が広がれば、施設全体が変わり利用者満足につながる。
やがてそれが文化として根付いていけば、生活しやすい地域に変わる。安心できる社会になる。
支援を受ける側も、力をつける―助けて、と言える家族に―
「家族には『支援を受ける力』をつけて欲しいんです」と中村代表は言う。
本当に必要な支援、必要でない支援を明確にしておかないと、本人、家族にとってもマイナスだからだ。
介護保険制度のこと、施設のこと。
不明なことや納得できないことがあれば、きちんと問いかけて欲しい。
私たち市民は生活者。
生活のなかに福祉はある。
行政や地域包括支援センターは、私たちに寄り添ってくれるものとして存在しているのだから。
ただ、その一歩が踏み出せないこともあるから活動を通して家族の背中を押してあげたい。
「必要なものを必要なところに届けること。使える社会資源が身近にあることを伝えるのも私の役目だと思っています」
自身が遠距離介護者でもある中村代表。
ケアマネからの「家族でしょ」という一言に対し、とても辛い思いをした。
「家族をとりまく環境や課題は、本当に様々で、単純なものでは決してありません。社会は『家族だから』というプレッシャーを与えがち。正義感だけでは介護は続きません。全力疾走していては家族が疲弊しきってしまいます」
介護という仕事は、生活全部を支える仕事。
ひとりひとり異なる生活を支えるのだから、求められるスキルはとても高い。
そんな“ケアラー”たちに寄り添い、サポートし続けたいと考えている。