「最期にお前に会えて良かった」―最高の褒め言葉を聞きたくて

香川県南部、自然豊かな綾川町にあるファーストスマイルは現在、同町内で3つのデイサービス、居宅介護支援事業所を運営。

昨年には一般社団法人を立ち上げ、宅配弁当サービスを開始。
この秋には有料老人ホームを開設予定だという。

児玉淳二代表に話を聞いた。

独立までの道

会社としては設立4年目。
児玉代表は職業訓練を行う障害者施設で10年ほど勤めたのち、知人が運営していたデイサービスで介護の経験を積んだ。

「ここで実践が鍛えられ、利用者への接し方も学びました。
『あんたがおるけん、来よるんで』『あんたが笑わせてくれるけん』などと言ってもらえるのが有難く、『もっと笑わせてやろう』と思っていました。
亡くなった後、家族に利用の写真を見せると
『普段はこんな表情、見たことがなかったのに…。いい顔していたんですね』
と言ってもらえたり。
やりがいを感じていました」

児玉淳二代表の写真

一方、利用者が増えていくにつれ、関わりたくても関われない利用者が出てくる。
「こうだったらいいのに」という思いも強くなった。
その後、他の会社で新規施設立ち上げにも携わり勉強。

独立を果たした。

笑った顔が一番いいから “一合一笑”

「最期にお前に出会えて良かったと言ってもらえるのは最高の褒め言葉だと思うんです。
これを聞きたくて施設の名前を『一合一笑』(いちごいちえ)にし、人は笑った顔が一番いいので会社名をファーストスマイルにしたんです」

運営5年目となる民家デイサービス一合一笑(綾川)は、普通の自宅を活用しており、浴槽も一般家庭にあるようなもの。
地域密着型で、介護サービスの利用が初めての人には使いやすいという。

“自宅のような環境”は大切にしながらも、それとは異なる雰囲気も脳への刺激となるため、『異空間』の演出も心掛けている。

例えば、食事はカフェで食べるようなワンプレートで提供。

民家デイサービス一合一笑(綾川)のランチプレート

「みなけっこう喜びますし、きちんと食べることができるんです。
できないんじゃないか、それは不向きなのではないかなどとも言われましたが、介護側の思い込みが多いんですよね」

デイサービス一合一笑(滝宮)は12月で4周年を迎える。
バリアフリーの施設で、機械浴槽も備えており、綾川のデイでは難しい人には利用しやすい。
両者ともに、運営は順調だという。

綾川と滝宮の間に位置するのが、5月にオープンした、pasto一合一笑だ。
ここは通所型サービスA型で、営業は週3日、定員10名となっている。
pasto一合一笑外観

古民家をリノベーション 食を通じ、幅広い支援 -循環-

Pasto一合一笑は大正時代に建てられた古民家をリノベーションした施設。
音響システムやプロジェクター等も備わっており、レンタルスペースとしても利用可能。
すでに一度マルシェイベントも開催されており、地域のコミュニティの拠点となることを目指しているという。

Pasto一合一笑のレンタルスペース

児玉代表は“社長”でありながら、日々利用者と携わる「現場人間」。

「夜ごはんなど、食事で困っている高齢者が多かったのと、配食サービスを行っている事業者のお弁当を見て『こんなものなのか…』と寂しく感じていました。
食を通じて幅広い支援も行っていきたいという思いもあり、社団法人を立ち上げました」

それが、配食サービスの運営を行う一般社団法人プリーモソッリーゾだ。

一般社団法人プリーモソッリーゾの配食

ただ単に配食サービスを行っても既存サービスもあり、面白くない。
そこで、あたたかいお弁当、お味噌汁などの汁物もつく、手渡しという3つの特徴を打ち出すことで差別化を図った。

保温保冷機能付きの弁当箱を使用することで、ごはんや汁物はあたたかさが保たれる。
玄関先に届けるのではなく、手渡し。希望があれば配膳も行う。
おかずのみ、糖尿食、刻みなどにも対応。
さらに、味噌汁の濃さ、量など、細かい個人的要望にも応じているという。

一般社団法人プリーモソッリーゾの汁物つき配食

「契約時には、しっかり要望を聞き、アセスメントを行います。
“配食先”と一括りにするのではなく個人として対応することで利用者や家族の満足にもつながると思っています」

付加サービスとして弁当配達時の安否確認、服薬確認、バイタル測定があり、その他、自費での通院付き添い、買い物代行、ゴミ捨てなどのアイウート(サービス)も行っている。

2、3人から始まった配食サービスの契約者は口コミなども通じ、現在70人弱にまで増加した。

利用者目線を外さず、「こうだったらいいのに」を具現化した結果、今に至る。

地域の人や利用者が作った野菜も活用

配食サービスに関する契約のアセスメントや配達も行っているスタッフで介護福祉士の宮地たか子さんは、ある日道の駅等に野菜を出荷している地域の人から「ブロッコリーを使ってくれないか」と相談を受けた。

「立派なブロッコリーで、余って破棄するにはとてももったいない野菜でした」

そこで配食サービスやデイでの食事にこうした野菜を活用。
他にも、利用者の家庭菜園や畑で採れた使いきれない野菜を譲り受けている。

デイの利用者を朝、迎えに行く。

「野菜持って行って」と車には野菜も乗る。Pasto一合一笑に利用者と野菜が“一緒にやって来る”。

「旬のもので鮮度もいい。
利用者に『こう調理しました』と伝えたら喜んでくれますし、買取することで喜ぶ農家さんもいます。
お米はどうですかなどの相談もあり、今後さらにこうした活用が広がっていきそうです」(宮地さん)

児玉代表の「ぐるぐるまわれたらいいなと思っているんです」という言葉が現実になっている。

必要なものが循環し、地域のなかで、みんながつながっていく。そこには無駄なエネルギー消費もない。

大切なのは、つながり。

弁当配達も行う児玉代表。

「普段宮地さんが担当している人にお弁当を配りに行くと『今日は宮地さんじゃないやね』と言われることもあり、まさに『つながり』です。
突発的に何かしようというのではなく、利用者が喜ぶことをしたい。
みんながつながれる仕事がしたいと思うんです。
自分で考え実行して反省して、の繰り返しですが、自分の引き出しがどれだけあるかで利用者への対応も変わります」

スタッフに求めるものは高いというが、その分利用者の満足度は高いはずだ。
取材に同席してくれた、宮地さんの言葉が印象的だった。

「誰がお弁当を持って行っても同じ、じゃあなかったんです。
『あんたが持ってきてくれたら、味が違うわ』と言ってくれる。
ただの弁当屋ではいかん。
愛を一緒に運ばないかんな、と思うんです」

だが、宮地さんは気づいている。

介護とは、ケアとは、カクカクこうあるもの、枠のなかに収まるものではない。

「収益を求めてはいません。なんとか回していけたらいいと思います」と児玉代表は話すが、その通りだろう。
話も聞いて、個人的な相談に応じていたら時間がかかる。

生活とはひとりひとりリズムリズが異なるもの。
それを支えるのだから、介護・ケアとはそもそもが、“大変”なのだ。

でもそれが、面白いから。
やりがいが感じられるから。
笑顔を見せてくれるから。

介護にハマる人、介護職が面白いと言える人たちはそこに光を感じているのだと私は感じる。

いちごいちえ、という名のもと、
入口から出口まで。
秋にオープンする予定だという有料老人ホーム、
寝たきりになっても寄り添い続けることのできる場所。
―人生の終わりまで。
ここ、綾川町で、地域に寄り添っていく。
(2019年6月取材)

向田 奈保

1983年生まれ ライター。武蔵大学社会学部卒。埼玉県出身、現在は香川にて、介護職の夫と3歳の娘と暮らす。 高齢者住宅新聞フリー記者として、介護・福祉・医療分野を長く取材。 地域社会、コミュニティ、多世代、ごちゃまぜ、建築、シェアハウス、まちづくり、オーガニック、食といったキーワードに飛びつき、介護・福祉・医療とはコミュニティであり、まちづくりという観点を持ちながら、フットワーク軽く取材をこなす。 時々、高校野球をテーマに原稿も執筆。

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