地域に愛される“場所” グランドオーク百寿

わいわい、がやがや…

入口を入ると40代か50代だかの女性グループ、幼い子どもを連れた“ママ友”たちの集まり、少し奥にはスタッフに援助を受けながら食事をとっている高齢者の姿があるなど、賑やかな様子で満ちている。

ここは、社会福祉法人よしみ会が運営する地域密着型特別養護老人ホーム「グランドオーク百寿」にある「OAK CAFE」。

開設して3年を迎えた。本格的なカフェスペースがあり、ランチも食べられるほか、幅広い品ぞろえのマーケットもある。

山口大輔施設長を訪ねた。

丁寧なヒアリング 地域に必要なものとは

グランドオーク百寿があるのは大阪府堺市、泉北高速鉄道の泉ヶ丘駅から徒歩15分ほどの場所で、茶山台団地の一角に位置している

かつてこの場所にはスーパーがあったという。

「スーパーの閉店が決定したのは、茶山台団地も開発から40年以上が経過し、住民は減り、高齢化。ちょうど変化が求められている時でした」

施設開設の公募があり、法人として応募。採択を受け、新規施設の開設が決まった。

そこで行ったのが、近隣住民などへの丁寧なヒアリングだった。

「自治会館などの人が集まる場所に行ったり、公園で遊んでいた子どもにも声をかけたりするなどして話を聞きました。人が集える場所、買い物ができる場所、食事ができる場所といった要望があり、カフェの開設が構想に挙がったのです」

“よくある老人ホームのカフェ”ではなくて、そのイメージを変えるようなものにしたかった。

月に1、2回しか空いていないのではなくて毎日オープンしていて、クオリティも高いものをと山口施設長は考えた。

OAK CAFÉの看板

 

内装にもこだわり、飲食店業界の経験をもつ大辻佑介さんを店長として採用。

大辻さんは大手カフェでの経験があり、大辻さんがチョイスしたというカフェマシーンなどがカフェには並んでいる。

本棚には若い女性が好みそうなオシャレな雑誌が並び、幼児用のいすもあり、使い勝手も良い。

OAK CAFÉの様子

マーケットを使う人も含め、現在では毎日述べ100名ほどの来訪者があるという。

地域社会にスムーズに受け入れられたのは半年間に及んだヒアリングの結果だ。

「ヒアリング期間でお互いの名前を覚え、人間関係を築くことができました。開設を楽しみにしてくれている住民もいましたし、開設後には駄菓子屋も開いたことで、子どもの訪問がありました。親が興味をもって来店し、“ママ友”などと利用してくれるようになり、利用の幅が広がっていきました」

地域がイベントを持ち込むように…

イベントも定期的に開催し、夏には「夏休み限定イベント‘らじお体操と朝ごはん’2018」を開催。予約で満員御礼となったという。

夏休み限定イベント‘らじお体操と朝ごはん’2018の様子

 

「最近は、夏休みのラジオ体操というのは毎日行うものではなく、決められた数日だけの開催が多いようです。また、両親が働いている家庭が多く、夏休みになると栄養がうまく取れないのか子どもの体重が減るという現象が起きていると聞いていました。そこで夏休み期間中の週に一度、ラジオ体操をした後にみんなで朝食を食べようという内容にしたところ、定員40名があっという間に埋まりました。入居者やその家族の参加もあり、多世代でにぎやかなイベントになりました」

今まで施設に足を運んだことのない人も呼び込むため、開設時からイベント開催には積極的だった。

法人主催でイベントを開催するには人の配置も必要となる。

介護サービスを疎かにすることはできないため、CSRの取組みとしてイベントを行ってもらえないか大手企業にも声をかけ営業。

これまで開催したイベントにはスターバックスやヤクルト、丸亀製麺などが出展したこともあったという。

 

「カフェが周知されたことで、最近ではイベントの在り方にも変化が生じています。地域がイベントを持ち込んでくれるようになりました」

プロのカメラマンによる写真の撮影の仕方教室、ブリザードフラワー教室など、ものづくりに関するカルチャー教室が多く開かれているようだ。

「ルールはありますが、どんな人でも使ってもらえればと思っています」

「地域交流課」の存在

カフェもイベントも中途半端にはしたくない。

法人に「地域交流課」があるのもそのためで、イベントの調整、行政からの働きかけの調整などを担当。

大辻さんを含め、現在1名の常勤スタッフと3名のパートスタッフ、女子高校生も1名所属しているという。

「カフェにはひとり暮らしの高齢者もよく利用します。相談事を受けることもありますし、介護保険の使い方を知らない人も多いので、地域包括支援センターなど場合に応じて必要なところにつなぐ役割もあります」

カフェに併設しているマーケットの様子

カフェに併設しているマーケットの運営は出張デパートを運営するフルカウント(大阪市)が行っている。

 

実際に店頭に立っているのは主に地域ボランティアで、午前と午後で2名ずつが担う。

ボランティアの報酬として、フルカウントがカフェのランチを提供。

そのランチ代はよしみ会がフルカウントに請求しているという。win-winの関係性だ。

「3、4人のボランティアで始まったのですが、現在は20名ほどが運営に携わって下さり、次の月の(予定を書き込む)カレンダーもボランティアの名前で埋めてくれています」

地域で暮す視点を大切に―ユニットケアで細かなケア

カフェは多くの人で賑わい、多世代が集まる交流の場所として幅広い活用がなされていることがわかる。

運営も好調だ。

では、入居者の生活はどのようになっているのだろうか。

24時間シートを活用 細かな情報落とし込む

施設は29名、ショートステイ10名の定員。4ユニットで構成されている。

「日常の生活拠点はユニットです。カフェへは時に買い物に来たり、『暇だから降りてみようか』と遊びに来たり。1ユニット10名を、常勤スタッフ4名、非常勤スタッフ3名の7名でシフトを組んでいます。基本的にスタッフは担当するユニットの入居者の情報をしっかり把握していればよいので、狭く、深く関わります」

施設の運営方針は5つ。

そのひとつに「一人ひとりに合わせたサポート」というものがある。

サポートの密度の濃さがケアの特徴だ。

「入居者ひとりひとり24時間の過ごし方は異なります。食事時間も6時の人もいれば10時の人もいる。そこで24時間シートを作成し、ケアに活用しています」

入居者ひとりひとりに担当がおり、その担当スタッフがケアマネジャーと相談しながらケアの内容を決めていくのだという。

「スタッフは細かいところまで、入居者のこだわりを把握しています。たとえば食事時の調味料の配置までびっしりと24時間シートに落とし込んでいます。ケア内容が決まっているとはいえ、季節によって起床時間の変化も異なるなど、時々に応じて柔軟に対応するようにしています。」

目覚めの時間から、整容、着替え、食事までの流れ、食事の好み、服薬の仕方等々。実際に24時間シートを見せてもらうと、その細かさに驚かされる。

シートは大きく「私の24時間シート」と「日々の暮らしの記録」と2項目に分かれ「日々の暮らしの記録」では実際の食事量などが入力されていた。

24時間シートを活用することで体調の変化などにもすぐに気づくことができ、入院が少ないほうではないかと山口施設長は話す。

 山口大輔施設長 (百寿)の写真

「小さな内出血でも事故報告書に挙げてもらうなど、ここではその基準が高いです。ご家族には『細かいところまで見ていてくれている』という安心感をもってもらえます。」

介護施設での事故というと大々的に報道されてしまい、介護施設の印象は大抵の人にとっては良くないまま。

「うちの家族がいる施設は大丈夫なのか」と入居者の家族が懐疑的になるのも事実。

だからこそ家族との関係づくりにも注力し、スタッフの間にも“気づこう”という空気が流れているという。

暮らしの場所だから 余計なモノを外す

さて、24時間シートが入力されているパソコンの配置は配慮されており、ハードに関しても機能的だ。

話を聞いていると、ハード面にも多々工夫があることがわかる。

「ここでは介護施設によくあるナースコールをスタッフに知らせる廊下灯は設置していません。ナースコールに対応し、PHSが鳴るようになっています。いろんな機器を置くことで施設っぽさが出てしまいます。家庭的にしたかったので、天井の高さもあえて低くしています」

ユニットには名前もついていない。

各居室の扉に小さく部屋ナンバーが刻まれているだけ。

余計なものはつけない。

余計な印もつけない。

なぜなら入居者にとってはここが「暮らしの場」だから。

施設のエレベーターもロックはかかっておらず、屋上への出入りも自由。

屋上では野菜なども育てており、家族が世話をする姿もあるという。

「ペットショップによるドッグサロンイベントも行ったり、屋上は多目的に使っています。夏休みにはプールを置いて子どもたちにも開放しました」

ロックをしない。

出入り自由。

もちろん危険はあるが、カギをつけることでスタッフの関わりが薄くなることを危惧したという山口施設長。

「カフェを地域に開放しているのに、施設自体を開放していないのはおかしいことです。出られないようにするのではなく、開放していることで施設から出ようとする行動は実際に少なくなりました」

ユニット内ではパズルをする入居者の姿もあれば、タブレット端末を利用する姿もある。

「最近のシニアの生活にも合わせ、Wi-Fiも導入しています」

地域で暮らすことのサポート、とは。

「特養に入居する際、自宅や友人関係など色々なものを失って入居される方が多くいます。そして施設での生活は建物の中で完結してしまいがちで、地域、社会との関係も薄くなります。しかし、失うことばかりの人生を送ってもらいたくないという思いで、できるだけ外に出て、新たな関係が生まれてほしいです。」

訪問美容も増えたが、来てもらうのではなく、施設から美容師のもとへ出向く。

自治会のイベントにも積極的に行くことで、何かあれば声をかけてくれ、イベントにも呼んでくれるようになる。

「地元の美容院といったように地域資源を使うことも大切です。定期的に通うことでなじみの関係もできる。日常生活というのはだいたい同じ時間で構成されるので、外に出るのが同じ時間であればよく会う人も同じ人。そのうちに挨拶を交わすこともありますよね。そんな関係性っていいなと思うのです」

“地域で暮らすことのサポート”も、グランドオーク百寿の運営方針のひとつだ。

 

グランドオーク百寿の詳細はシニアの暮らし応援ポータルサイト「楽々くらサポ®︎」サイト内事業者ページをご確認ください。

1983年生まれ ライター。武蔵大学社会学部卒。埼玉県出身、現在は香川にて、介護職の夫と3歳の娘と暮らす。 高齢者住宅新聞フリー記者として、介護・福祉・医療分野を長く取材。 地域社会、コミュニティ、多世代、ごちゃまぜ、建築、シェアハウス、まちづくり、オーガニック、食といったキーワードに飛びつき、介護・福祉・医療とはコミュニティであり、まちづくりという観点を持ちながら、フットワーク軽く取材をこなす。 時々、高校野球をテーマに原稿も執筆。

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