岡山県のグループホームぶどうの家が提供する「居心地が良い」空間にあるモノ 

三喜(岡山県倉敷市)が運営しているグループホーム・小規模多機能ホーム「ぶどうの家」はホームページがあるわけではなく、宣伝を出しているわけではない。

しかし、地域住民から愛され、利用者も多く、家族の満足度も高いという。

訪問した。

襖のしかけ、ハードのしかけ

外では利用者と職員が一緒に洗濯ものを干している光景がある。

ぶどうの家の外観はダークなトーンをした木造の平屋づくり。

重厚感かつ温もりが感じられ、畳のある純和風な造りだ。

玄関は段差があり、浴槽も一般家庭にあるようなもの。

オープンキッチンで、職員が食事の準備をしており、居間からはその様子、音や匂いも直に感じられる。襖を閉めれば幾つもの居室となるのは設えの工夫だという。

居間では利用者が数人ごとにあちこちに座っており、お茶を飲んだりしながら一息ついている。

岩井由紀子管理者は「日常の動きのなかでリハビリとなるように、あえて段差があり、普通の浴槽を導入しています。トイレも2か所ありますが、あえて居間からは遠いトイレに誘導し、体を動かしてもらうようにしています。利用者に調理や洗い物などの一部を手伝ってもらうことも日常的です」と説明する。

小規模多機能の泊まり専用の部屋は設けていない。

これは、襖を閉めれば居室となるためで「襖は体を支えてくれる手すり代わりにもなる」と語るのは武田直樹総合施設長だ。

(※以下、話はすべて武田総合施設長)

「襖は面なので、手を置く場所も選ばない。不穏な状態や休息したいなどの利用者がいれば襖を閉めて個室にして落ち着いてもらうこともできる。便利です」

泊まり専用の居室を設けていないのも襖を閉めれば居室となるからだ。

「利用者の状態によっては椅子とテーブルに腰掛けますが、基本的には畳に座ってもらっています。椅子に頼ってばかりだと、体幹が弱るんです。畳からの立ち上がりの動作には時間がかかりますが、足腰を鍛えることになります。少なくともトイレの回数だけ立ち上がるわけです。一連の動作には頭も使います。心身使わなければやはり弱っていくもの。また、立つことができなくてもお尻をつきながら移動できます。自分の力で移動できるというのは畳の利点です」

60代の若年認知症の女性は立ち上がり動作ができなくなっていたが、ぶどうの家に来てそれができるようになったという。

水道の蛇口も自動ではなくひねって水を出す形式のもの。

居間からキッチン台に入る間には手洗器があり狭い間だが、この狭さも計算してのことだ。

「狭さも大切。手洗器は頑丈な造りで、もたれても大丈夫。やはり手すりにもなりうるのです」

ソフト面で大切にしているのは「日常」だ。

アクティビティを用意するのでもなく、ぬり絵等に取り組むのでもない。

洗濯物を干したり、食事作りを手伝ったり、天気が良ければ散歩に出かけ、今度は洗濯ものを畳んでと、その日一日が過ぎていく。

スロープレスという考え方

ぶどうの家の隣にはサービス付き高齢者向け住宅「ぶどうの家 花帽子」がある。

スロープがついているのだが、段差のある玄関には車椅子で上がるための専用の階段がある。

「スロープがあることで、玄関に入るまでの直線距離が長くなりますし、雨や雪の際は滑って危険なこともあるのです。また、車椅子をずっと押さなければいけないため女性職員には力のいる動作となる。専用階段は車椅子を階段に乗せるその瞬間には力を使いますが、その一点だけでとてもスムーズな動きで階段を上がることができる。職員も緊張するためかえって安全。実際に階段のほうがいいと職員は言います」

花帽子では、玄関から靴を脱いでフロアに入る部分はバリアフリーとなっているのだが、このバリアフリーの状態を武田総合施設長は残念がっている。

「市からの指示によるものです。この間がバリアフリーなことで、せっかく玄関まで上がり、いざ住まいのなかへと意識が向かっているところを、靴を履いたまま入ってしまう入居者がいるのです。認知できていないのです。段差を付けたかったのですが、市の担当者に何度説明しても受け入れてもらえなかったのです」

そのほか、廊下の幅、手すりの配置など、市による設計上の制限が多く、思っていたように出来なかった「ハード」があると話す。

生活の匂いを感じられるように

とは言え、1階の居室にはすべて専用玄関が設けられており、すべての居室への入り口がドアではなく襖なのも特徴的だ。

「生活の音、匂い、人が動く気配が襖だと聞こえてくるし、感じられる。ここを大切にしたいがために襖を活用しているのです」

花帽子の屋内は全体的に暗く、オレンジ系の明かりが灯っている。

「照明が少なく、暗いということは視野が狭くなるので、そのぶん情報もキャッチしづらくなるのです。オレンジ色の落ち着いたトーンは高齢者が求めるものでもあると考えています」

続いて、空いている居室を見せてもらうが、照明がついていない。

「照明は自分の家にあったものを持ってきてもらうようにしています。家の照明は見ないようで実は見慣れているもの。寝る時に知っている照明があるということは『安心』につながるのです」

人が移り住むということは、リロケーションダメージがそれなりにあるというもの。

目から入る情報が多く、認知症を抱えていれば余計に混乱のもととなるという。

居室と内のトイレのドアは小窓風にくり貫かれており、鍵もついている。 

「一般住宅であればトイレのドアは鍵がついているというのが理由です。ドアの一部分をくりぬいたのはトイレから出られなくなってしまうことがあるから。ここから職員が手を伸ばせば鍵を開けられます。また、排泄の状態もそっと覗くことができるのです。職員に堂々と排泄の状態を見られるのは気持ちの良いことではない。入居者と職員が歩み寄って、その人のテリトリーに入ることを許してもらえる最大公約数をいつも探しているのです」

駄菓子屋と地域の食堂で地縁が復活

 現在の「ぶどうの家」が建つ前に使用していた一軒家の元「ぶどうの家」が敷地内には残っている。

現在、日常は駄菓子屋として、月に2回は地域の食事処として開放されている。

駄菓子屋の店番は利用者が務めることもあるといい、地元の幼稚園児や小学生らが買い求める。

「食事処は様々な人が訪ねてきます。地域住民が気軽に集ってもらえる場としたかったため、利用者が利用することも当然ありますが、『認知症カフェ』と謳うことはありません。そう謳うことで、利用することに対する『壁』ができてしまうのも避けたかったのです」

食事処の運営をしているのは法人内のNPO法人わたぼうしだ。

武田総合施設長が代表理事も務めているが、有償運送や買い物支援といった事業を行っているのだという。

地域住民の利用も多いという。

必要な物品を宅配する形ではなく、一人で買い物に行くことが難しい人を車に乗せて、一緒にスーパーなどに行き、自ら買い物をしてもらうという支援の仕方だ。    

「サービスを利用したい人は『待ったなし』です。有償運送は365日いつでも利用可能で、7人の運転手がいます」

有償運送は「ご近所の起爆剤になればと思いやっていること」だという。

利用者のことを説明し、地域住民に見守りの依頼や徘徊していれば連絡してほしいなどと依頼することも多いという。

「地域に車を走らせることで、疎遠になっていた人同士がまた仲良くなることもあるのです。近所の様子もよく見えてくる。食事処の利用での送迎をしていれば、話のなかで、利用者が過去によく会っていたり、友達となり、様子も教えてくれることもある。お互いが気にかけるようになります」

地縁が復活した、とも言えるだろう。

「うちはコレです」。ありのまま。

今回訪問したのは倉敷市の船穂町にある「ぶどうの家」。

隣町・真備にも「ぶどうの家」がオープンしている。

これは需要があったためで、需要がなくなるとは考えにくいが、武田総合施設長は「需要がなくなれば閉じても良いんです」と話す。

ホームページがないのは何故かも聞いてみた。

「利用者のためになることがあれば良いですが、何か作られたものになってしまうのも避けたかったのです」

法人で、居宅支援事業所を設けていないのも、外からの目を大切にしているためだ。

サ付き住宅にデイサービスも併設されておらず、法人内の小規模多機能を利用しているのは1名のみで、他の入居者はみな外部サービスを利用しているという。

「居宅を持つと、『自分たちのサービスを』となってしまい閉鎖的になりがち。ここでは外部からケアマネジャーが10人ほど行き来することが多いですが、見られることで外からの風通しも良くなります」

だからいつでも見学可能なのだ。

いつ訪れてもいい。

ありのままを見てもらいたいから。

「『うちはコレです』とありのままです」

向田 奈保

1983年生まれ ライター。武蔵大学社会学部卒。埼玉県出身、現在は香川にて、介護職の夫と3歳の娘と暮らす。 高齢者住宅新聞フリー記者として、介護・福祉・医療分野を長く取材。 地域社会、コミュニティ、多世代、ごちゃまぜ、建築、シェアハウス、まちづくり、オーガニック、食といったキーワードに飛びつき、介護・福祉・医療とはコミュニティであり、まちづくりという観点を持ちながら、フットワーク軽く取材をこなす。 時々、高校野球をテーマに原稿も執筆。

向田 奈保の最新記事