“当たり前にそこにある存在”を目指して 奈良 おたがいさん

“当たり前にそこにある存在”を目指して 奈良 おたがいさん

レザークラフト製作や洗車など、利用者に仕事があるデイサービスが奈良県桜井市にある。

定員16名、認知症特化型の「おたがいさん」だ。誰かのためにできることをしてもらう場、との意味合いから「利用者」のことを「メンバーさん」と呼ぶ。

運営する「おおきに」(同)の太田悠貴代表に話を聞いた。

老いてもできることはある。

取材をした日は近くの幼稚園の卒園式を翌日に控えているということで、この日は多くのメンバーさんが園庭の掃除に外出しているとのことだった。

おたがいさんでは決まったアクティビティがあるのではなく、お昼ご飯の買い出しに行くグループ、畑作業に出るグループ、屋内でレザークラフトに取り組むグループなどに分かれ、その日その日に応じた活動に従事する。

おたがいさんは、この4月で丸2年を迎えた。

太田代表は訪問介護、小規模多機能居宅介護、老人ホームなど様々な介護現場で仕事を経験。

「認知症でもできることはたくさんある。サービスを受けるばかりでは本来できることもできなくなっていく。自分が年をとった時に受けたい介護サービス、親に行ってもらいたい介護事業所がないと思いました」と会社立ち上げのきっかけを話す。

「おおきに」(同)の太田悠貴代表の画像

職歴や特技から「仕事」へ発展

おたがいさんの特徴は、メンバーさんの職歴や特技を活かした「仕事」があることだ。

元タクシー運転手、車好きのメンバーさんは洗車、元大工のメンバーさんはオーダーメイドの木工製品やデイで必要な物づくりといった仕事がある。

「送迎に行くと、大工道具を持って玄関に立っているんです」

おたがいさんの特徴でもあるレザークラフト製作は元グローブ職人だった女性メンバーさんから手ほどきを受け始まったという。

「革製品は桜井市の地場産業の一つということもあり、それを活かしたものづくりをしたかったのです。彼女は認知症ですが、他人に教えることもできたので、メンバーさんを養成しレザークラフトができるようになりました」

皮に針を刺すのは力のいる作業でもあるため、男性メンバーさんが針を刺す、女性メンバーさんが縫製、といったようにできる作業を分担しているという。

キーホルダー、小物入れ、コップのスリーブなどの製品があり、いずれも好評だ。

小物入れは女子高生から、コップのスリーブは地域の喫茶店からのリクエストで生まれた製品だという。

最近では、地元のプロバスケットチームの公式グッズを提供することも決まった。

おたがいさん 持ちつ持たれつ の画像

時給千円。BARおたがいさん

「お酒を飲んだ帰りに歩道橋から落ちて亡くなった高齢者の話を知人のケアマネから聞いて、BARをやろうと思いました。年をとってもお酒を飲みたいですから」

メンバーさんに、クラブで黒服をしていた男性、接客業や料理が得意な女性がいたこともあり、BARおたがいさんが始まった。

3日ほど前から仕込みを始め、デイの提供時間を終え送迎した後、17時に再送迎、「時給を上げないといけない」ので22時までには切り上げるという流れだ。

BAR用のオリジナルの制服を着て、注文を聞く、料理を作る、配膳するといったことはメンバーさんが行う。

職員は少し手伝うだけだという。

飲酒する人は65歳以上が2,500円、65歳以下が3,000円。

ソフトドリンクのみの場合は65歳以上が1,500円、65歳以下が2,000円だ。

「2月のBARでは、土手焼き、おでん、だし巻き卵、ポテトサラダなどの料理が並びました。他の介護事業所からのお客さんもいて、お酒を飲みながら盛り上がりました。BARを開催するときは、メンバーさんに時給千円を支払います。稼いだお金は孫のおこづかいに、自分の子どもと食事に行くといった用途に使われるようで、こんなお金の使い方は素敵だなと思いますし、BARで働いている姿はとてもカッコイイんですよ」

BARおたがいさん メンバーさん手作りのカウンターの画像

今でこそおたがいさんは高齢者が元気になるデイサービスとして知られているが、多様な活動をするため、当然ケガをする可能性もある。

「ケアマネや見学者に『ここではケガをすることもあると思います』と必ず説明していますが、内覧会では『こんなところに高齢者を行かせることはできない』と怒って帰ったケアマネもいるほど散々でした」と振り返る。

しかし、「元気になってデイをやめた人がいる」という噂が広まり、好転。

それは次のようなエピソードだった。

うつと認知症を抱えた独居の70代の男性メンバーさんがおたがいさんで食事の作り方を覚え、仕事をして汗を流す快感を覚え、元気になりデイを「卒業」、シルバー人材センターに登録したというものだ。

「普通の生活を維持するための介護保険なのに、お風呂は決まった時間にしか入ることができない、好きな食事が食べられないというのはおかしい。自由でなくなっていきます。普通の生活をしていれば、けがをすることもある。お年寄りにだって、リスクを背負う自由もあるはずです」

利益還元イベント

レザークラフトなどの仕事で出た利益は、半期に一度イベントという形でメンバーに還元される。

「現金には直接絡まない活動をしているメンバーさんもいますが、何かしらおたがいさんでの利益につながっているので、イベントという形式で還元しているんです」

昨年の冬はA5ランクの焼肉だったという。

すべてのメンバーさんが食べられるように開催は複数回に及ぶため、胃もたれする職員もいたほどだ。

「その前年はカニを5、6キロ購入しました。そのとき一番食べたいものをメンバーさんに聞きますが、とても喜んでくれますし、食欲も旺盛です」

地域で暮らす、地域で生きるとは。

おたがいさんでは14時になると駄菓子店が開店。

近くには小学校もあるため、子どもがよく買いに来るという。

週に一度はパン店も開店する。

こうした店番を務めるのもメンバーさんで、子どもの下校時に旗持ちをする活動も行っているという。

おたがいさん駄菓子屋看板の画像
「旗持ちの活動が終わった後や畑作業の後に喫茶店に行くことも多いのですが、地域のお店に行くことで、認知症の高齢者のことを理解してもらえますし、喫茶店にとっては顧客になる。迷惑をかけていることもあるかと思いますがそこが『おたがいさん』の心持ちです」

おたがいさん駄菓子店の画像
太田代表が意識しているのは、地域との交流、多世代との交流だ。

年末に開催された餅つきイベントでは、地元高校の野球部監督に手伝いを依頼したところ、30人近くの部員とマネジャーが手伝ってくれたという。

「杵と臼でしか餅をついたことのない高齢者と、杵と臼を使うのが初めてだという高校生のやり取りは面白かったです。女性メンバーさんにより、ぜんざいで彼らを労いました」

おたがいさんにはベビーベッドが置かれ、赤ちゃんをおんぶしたスタッフもいる。

幼い子ども連れでも出勤可能で、メンバーさんがおむつ替えや幼い子どもと遊んだりする光景は日常だという。

「『介護士か保育士になるか迷っているんです』と言っている女子マネージャーがいましたが『おたがいさんなら両方できるよ』と伝えられました」

餅つきには地域住民も訪問。

多様な人で賑わった。

「地域にはいろんな人がいるのに、その場所に高齢者だけしかいなくて、ゲームなどをしているというのは不自然だと思うんです。デイサービスを高齢者だけがいる場所にしたくなかった。駄菓子屋を始めたのも子どもを呼び込みたかったからです。高齢者はデイサービスと自宅だけの行き来で生活しているのではない。お昼ご飯の買い出しでよく利用するスーパーでは、店員がメンバーさんのことをよく知っています。メンバーさんがプライベートで買い物に出かけることもある。個人で買うには多すぎる缶コーヒーが買い物かごに入っていても、認知症であることもわかってくれているので数を減らしてくれるのです。定員が『おたがいさまやからいいやん』と言ってくれるんです」

こうしたエピソードが地域で生きるとはどういうことかを教えてくれる。

お互いが知っている存在であるからこそ、気にかけて助け合うことができる。

認知症があっても地域で安心して暮らしていける。

「『おたがいさん』という言葉の持つポテンシャルは凄いなと感じています」

新しい提案「sumika」

この夏、有料老人ホーム「sumika」を開設する。

看取りと、役割と仕事があるという二大コンセプトだ。

職員20人ほどの新規募集に対し、すでに50名ほどの応募がある。

「なんの制限もかけない。ジレンマは一切ない。職員がしたいことは責任をもってやってもらいたい」

ということを太田代表が唱っており、それを求めている介護経験者が多いということだ。

入居希望者もすでに十数人いるという。

「他の有料老人ホームからの転居希望者がいます。有料老人ホームでの生活が暇だからということでした。生活保護受給者も受け入れます。食事作り、洗い物、館内掃除など、1時間でいくら、1回いくらという形態で給与を発生させます。ここで得た収入を生活費に充ててもらうなど自由な使い道をしてもらえれば。一方で、職員は資格を活かした仕事に専念することで仕事の質も高まります」

もちろんsumikaでも地域との交流も大切にした運営をしていくという。

食堂には図書館を設置し、フロアは貸出し、地域住民は自由に使うことができる。

「おたがいさんもsumikaも当たり前にそこにある存在になっていけばいいと思っているんです」

向田 奈保

1983年生まれ ライター。武蔵大学社会学部卒。埼玉県出身、現在は香川にて、介護職の夫と3歳の娘と暮らす。 高齢者住宅新聞フリー記者として、介護・福祉・医療分野を長く取材。 地域社会、コミュニティ、多世代、ごちゃまぜ、建築、シェアハウス、まちづくり、オーガニック、食といったキーワードに飛びつき、介護・福祉・医療とはコミュニティであり、まちづくりという観点を持ちながら、フットワーク軽く取材をこなす。 時々、高校野球をテーマに原稿も執筆。

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