「ぬか つくるとこ」の魅力

「ぬか つくるとこ」の魅力

岡山県早島町。

築100年以上の木造家屋の蔵を改装したという趣のある建物が、生活介護事業所「ぬか つくるとこ」(以下、ぬか)。

この12月で5周年を迎えた。

入口に近づくと聞こえてきたのは太鼓の音と賑やかな話し声。

呼び鈴が見当たらず、ドアを開けて「こんにちは」と言うと「いらっしゃいませー!!どうぞ、どうぞお上がりください」「おかけになってください!」。

そして、訪問者は私のみであるがスリッパが3足並べられた。

 

そんな笑顔の挨拶とスリッパを並べてくれたのは、利用者の“しょうへいくん”だ。

しょうへいくんに案内され中に入ると、立ち上げメンバーのひとり、生活支援員であり、ぬかのアートディレクターも務める丹正和臣さんが現れた。

事業所名の「ぬか」は糠味噌から由来するという。「ここでは利用者のことを“ぬかびとさん”、訪問者のことを“まぜびとさん”と呼んでいます」(丹正さん)

ぬかのサイトには『正面から捉えるとひるんでしまうことも、ちょっと角度を変えてみれば、だれも気付けなかった価値が生まれたりする。そういった価値や個々の魅力が「ぬか漬」のように時間をかけてゆっくりと発酵し、社会へと広がって行くことを願って付けました』とある。

 

定員20名、ダウン症や自閉症などの障害を抱えた人たちが通っている。

間口を広く、誰でも訪れやすい場に

取材にあたって、ランチを予約していた。

前日までに予約すれば一般の人でもぬかびとさんととともに同様のランチが楽しめる。
ぬかには20年以上の飲食店業の経験を持つ専属のシェフがいるため、美味しいランチが食べられるのだという。
訪問した日の献立は、かきとれんこんのオイスターソース、ささみとくらげの和え物、こしひかり、中華風スープ、香の物。お膳を使い、陶器の食器に一品ずつ料理が丁寧に盛られている。

丹正さんは「ランチを一般の人にも提供することで、誰でも訪問しやすくなります。間口を広げているのです」と説明する。

丹正さん

以前、ある会社による企画で、ぬかで過ごす1泊2日のツアーが催され、5名定員のところ1週間ほどで定員になったという。

「ぬかびとさんと食事を楽しんだり、ぬかびとさんが講師となったワークショップに参加してもらったりしたのですが、このような”人を呼び込む仕掛け“ってとても面白いと思うのです。ランチ提供もそのひとつですが、まぜびとさんがたくさん訪れることで、新鮮な空気が入り、ぬかというこの場所も変化するのではと考えています」(丹正さん)

良いぬか床であれば、より美味しい漬物ができる。
ぬか漬けは「発酵」によって美味しくなる。
その発酵を助けるのは、人の手によるかき混ぜるという行為だ。
訪問者=まぜびとさんの役割とも言える。
健常者と障害者が混じり合い「発酵する」ことで、より良い「ぬか」―いわば面白さ、楽しさ、心地よさが生まれるということかもしれない。

午後、「こんにちは!!」と近くの幼稚園児が訪れ「この間はありがとうございました!!」とお礼のあいさつをしに訪れた。

「毎年行っているハロウィンイベントのお礼ですね。ぬかびとさんがそれぞれ自分の好きな衣装を選び、幼稚園にいる子どもたちにお菓子を配りに行ったんです。怖がって泣いてしまった子、喜んだ子など、色んな表情が見られました。ぬかびとさんもとても楽しんでいました」(丹正さん)

ハロウィンの様子

ぬかは、地域にもなじんだ存在となっている。

障害の捉えかた

アートディレクターという肩書のある丹正さん。芸術大学出身で、福祉に関わる仕事を目指していたわけではなかったという。

「もともと個人で仕事をしており、ハンディのある子どもと半年間交流しながら、ものづくりをするプログラムに携わっていた時期があったのですが面白みを感じていました。代表の中野が働いていた障害者施設でも外部講師として美術を担当をしており、関わりがありました」

ぬかの代表取締役を務める中野厚志さんが施設を辞めることになり、中野さんとともに音楽やアート活動に力を入れている全国の面白い施設を見学。
そうこうしているうちに早島で趣のある蔵と出会う。
聞けば、この蔵を借りられるという。
中野さんが考えていた新規事業立ち上げ。
丹正さんも一緒に始めることになった。

ぬかのデザイン全般に関わりながら、支援員としてぬかびとさんと活動をともにする。
現在、障害をどのように捉えているのだろうか。

「ここでは多様な障害のある人がおり、日々の営みも多様です。ですが、そもそも社会って多様なはず。例えば、自閉症の人がいて、その人のなかにある絶対的なものと僕のなかにある絶対的なもの。人だから違う部分ももちろんあるのですが、同じ部分もあるのです。障害者支援という制度は必要ですし重要だと思いますが、普段のコミュニケーションで障害を感じることは少ないのです。何かハードルがあるなら、それをなくせばいい。健常者が障害者になるワークショップ、なんてのも面白いかもしれません。あたかも障害者手帳を持っている人、のように演じてみる。演じてみることで、障害者と健常者のボーダーを超えることができるのではないかと。二者の境界線なんてそのくらいのものなのかもしれません。もちろんその時々の状況、環境、間柄で変わるでしょうが、にじみ出したり、にじんでいくようなものなのかもしれません」

ぬかではまぜびとさんとして存在する訪問者。
そこには肩書きも、障害の有無も関係ない。「一人の人」として「在る」のみだ。

イキイキと音楽を奏でる訪問者たち

丹正さんは利用者と外出。
替わって、代表の中野さんが外出先から戻り取材に応じてくれた。

価値あるコンテンツを創りだす

ぬかが一般的な生活介護事業所と異なるのが、デザインのクオリティの高さ、ユニークなイベントの数々だ。

サイトのクオリティもさることながら、ぬかびとさんが描いた絵をモチーフにした商品があるオンラインショップがあったり、ぬかびとさんの特徴や特技を活かした有料のワークショップイベントが開かれたりする。

一方で、ぬかの日常の活動でも「妖怪月間」と称し、「ヨーカイコンテスト」が行われたりするなど、とにかく“面白そう”ことが多々行われている。

ぬかでの活動の様子

中野さんは障害者施設で勤める傍ら、大法人での働き方、利用者との関わり方に疑問を感じ、悶々としていたという。

アート活動、表現活動を中心に行っている全国の法人を見学することで、自身のやりたいことの指針やベースが築かれていったと話す。

「ただ、アート活動そのものに関してはその人自身の個性を引き出す媒体としか思っていません。個性や表現の仕方はみな異なっていて、そこに面白さを感じるんです。ぬかでは、ホストクラブをやったり、どんなイベントが開催されるか、何が生み出されるかわかりません。ただ、外部に出すからには、デザインを丁寧に考えなければいけません。そこに丹正を中心としたスタッフのデザイン力をもってコンテンツとして成立させているのです」(中野さん)

中野さん

ぬかのスタッフには芸大の卒業者が3名いるほか、個人的に絵描きをしているパートスタッフもいるという。

マンチャンカレーというコンテンツがある。

「マンチャンというぬかびとさんは、“甘口トーク”や“辛口トーク”が得意で、私たちは叱咤激励を受けるんです。それをスタッフがもじり、マンチャンカレーというテーマソングを作りました。その後、県内のマルシェイベントに参加しないかと声がかかったのです。ぬかにはシェフがいるので、『マンチャンカレー』と称するカレーの出店を決めました」(中野さん)

マンチャンは車椅子生活ながら、移動はほふく前進。鍛えられた身体の持ち主なのだという。「マンチャンが仕上げのトッピングをして完成するカレーで、マッスルカレーというコンセ
プトができ、トッピングに『プロテイン』という素材が加わって面白みが付加されたのです」
(中野さん)

一般のマルシェに出店することで一般の人とつながることができ、ぬかという存在を知ってもらう機会にもつながる。

テーマソングは4曲入りのCDとなって販売。
ジャケットはマンチャンの手書きによる、1枚ずつイラストが異なるもの。
完売し、第二版を考えている最中だという。

 

戸田さんというぬかびとさんが不定期で営むおみくじのお店「とだのま」。

戸田さんは読書家で、俳句や詩の創作などを行い、多様な言葉を紡ぐ。
ぬかのサイトにも「まさ夫のホテル回船問屋」という一言コラムが掲載されたコンテンツがある。
おみくじには大吉、中吉といった運勢が書かれているのではなく「戸田さんが紡いだ何気ない一言が直筆で」書かれているのという。
そんな「とだのま」は京都のイベントにも出展した。

「県外から『出展しませんか』と声がかかることも増えてきました。SNSの影響も大きいと感じています。頻繁に情報発信していることで、“面白そう”“何をしている所なのか”と福祉関係者ではないフォロアーも多く、戸田さんのファンもいます。ぬかびとさんの個性にほれ込んだのでしょう」(中野さん)

 

マンチャンカレーも、とだのまも、デザインという力をもって社会に放たれたもの。
ぬかには稟議書や会議という名のついたものは存在しないが、「ことば遊び」などといったアイデア出しの時間などが設けられるという。

「アウトプットの場では、言葉が次々に無責任に発せられますが、スタッフの『気づき』を活かすにはリスペクトから始まる必要があります。同時に、社会に出せるようなコンテンツにするには丁寧なデザイン、力が必要です。スタッフの力を集結させ、面白くて、より良いコンテンツを日々目指しています」

“今、ここ”を生きる彼ら

訪問した日は「ぬかの文化祭」の3日目。
戸田さんによる紙芝居、オーディションも行われ、衣装も手作り、演出も練習したという「水戸黄門劇場」が開かれ、ぬかの空間は笑いで溢れていた。

ぬかびとさんの個性が豊かなこともあり、何が起こるかわからない。
大変なことも多々あるのだろうが、「今、ここ」を全力に生きているということを実感した訪問でもあった。
だからこそ、「澄んだ居心地の良さ」のようなものを私は感じたのだろう。

向田 奈保

1983年生まれ ライター。武蔵大学社会学部卒。埼玉県出身、現在は香川にて、介護職の夫と3歳の娘と暮らす。 高齢者住宅新聞フリー記者として、介護・福祉・医療分野を長く取材。 地域社会、コミュニティ、多世代、ごちゃまぜ、建築、シェアハウス、まちづくり、オーガニック、食といったキーワードに飛びつき、介護・福祉・医療とはコミュニティであり、まちづくりという観点を持ちながら、フットワーク軽く取材をこなす。 時々、高校野球をテーマに原稿も執筆。

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