その人の世界を受け入れて。

その人の世界を受け入れて。

全国各地で「老いと演劇のワークショップ」を展開している、俳優で介護福祉士、「老いと演劇」OiBokkeShi主宰の菅原直樹さん。活動について話を聞いた

お年寄りほど、いい俳優はいない

菅原さんは介護施設での勤務から演劇と介護の相性の良さに気づき「お年寄りほど、いい俳優はいない」「介護職は俳優になったほうがいい」という二つの強い思いがあるという。

「腰を曲げて歩いている姿だけで、すごいものがあるんです。俳優として負けたと思いました。介護施設には個性的な人が多い。80、90年と生きてきたのですから、膨大な人生のストーリーがあるわけです。医師だった人、農家だった人など、職業も様々。介護施設には人生が詰まっている。だから、歩いている姿が人を惹きつける。最高のパフォーマーだとも思います。いつか一緒にお年寄りとお芝居を作りたいと考えていました」

そこで生まれたのがOiBokkeShiで、すでにこれまで5作公開されている。

「介護職は俳優に、というのは、認知症の人が記憶障害、見当識障害を持っているのは仕方のないことです。間違いを訂正するのではなく受け入れることが重要。認知症であっても感情は残っているとよく言われますが、訂正されることで、その人は傷つくかもしれない。頭ごなしに否定するのではなく、間違ったことでも受け入れる。その人の世界を受け入れ、演じてみる必要があるのではと思うのです。自分とは異なる価値観に興味を持つことが大切です」

演じるとはどういうことか。例えば、傘で掃き掃除をしているおばあちゃんがいるとすると、その状況はおかしいが、おばあちゃんは良かれと思って行動している。

「『掃除ありがとうございます。新しいほうきを持ってきました』とほうきを渡し話すことでおばあちゃんの行為は活かされるわけです。高齢者は明日、どうなるかわからない。だからこそ今、この瞬間を大切にした関わり方が大切だと思うのです」

ワークショップでは、参加者がグループを組み、介護職や認知症の人、双方を演じ、認知症の人の世界を疑似体験することができる。

OiBokkeShi主宰の菅原直樹さん


「疑似体験することで、気づきを得ることができます。介護の仕事は大変ですが、関わり方次第で、『今、この瞬間』を楽しむことができる。老い、ボケ、死というものを排除するのではなく受け入れる文化を輩出していきたいと考えています」

向田 奈保

1983年生まれ ライター。武蔵大学社会学部卒。埼玉県出身、現在は香川にて、介護職の夫と3歳の娘と暮らす。 高齢者住宅新聞フリー記者として、介護・福祉・医療分野を長く取材。 地域社会、コミュニティ、多世代、ごちゃまぜ、建築、シェアハウス、まちづくり、オーガニック、食といったキーワードに飛びつき、介護・福祉・医療とはコミュニティであり、まちづくりという観点を持ちながら、フットワーク軽く取材をこなす。 時々、高校野球をテーマに原稿も執筆。

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