ライセンスではない。「人」に話す―山勝ライブラリ、FIKA三丁目

ライセンスではない。「人」に話す―山勝ライブラリ、FIKA三丁目

居宅介護支援事業所であり、カフェであり、時計屋でもある場所が大阪府羽曳野市にある。

それはおのおの、株式会社「山勝ライブラリ」、カフェ「FIKA三丁目」、時計店「山勝」。

付近には郵便局やスーパー、銀行が近くにあり、バスも頻繁に通り、人の往来が途切れない。

9時半過ぎ、ドアを開けると、おばあちゃんとすれ違い、おじいちゃんが一人座っていた。

その後間もなく40代の仕事帰りの男性がアイスコーヒーを求めに来店した。

代表の山下勝巳さんに話を聞いた。

カフェにより人の流れを持続

「先ほどのおばあちゃん、おじいちゃんは常連さんで、座っている男性も常連さんです。カフェには女子大生も来ますし、普段から多世代が来店します」

時計店「山勝」は山下さんの父が営む店で、時計の修理以外で「父とおしゃべりをしに」来る人がとても多かったのだという。

もともと、店の空間の一角を使い、居宅介護支援事業所を運営していた山下さん。

父が高齢になり、店の空間全てを息子に譲るという話になったが、「父が作った人の流れ”を断ちたくなかった」と説明する。

そこで思いついたのがカフェの運営だった。

コーヒーは好きな飲み物ではなかったというが、ハンドトリップの仕方を習得し、飲食店の営業許可も取得した。

FIKA三丁目(カフェ)の画像
「店番をしていて会話をしていると、話題が健康の話になっていくことが多いのです。『ヘルパーを頼んだらどのくらいの費用がかかるの?』などと介護に関する話になり、申請につながるケースも多い

かつて、介護施設の新規立ち上げや集客営業の仕事もしていましたが、集客や新規の利用者の獲得はとても大変で、いくら段取りをしても人が来ないということが頻繁だったのですが、ここでは自然に利用者も増えていくのです」

体の不具合が多少あったとしてもまだ体が動き、認知症でもないうちは「介護なんて…」と考えたくない、話したくないというのが現実だろう。

「時計の修理に来ただけ。その流れで僕らと会話をしているうちに心がほぐれてきて、次第に自身や家族の困りごとなどを語ってくれるようになる。『店に大きく“介護”と謳われていたら入らなかった。“あんたやから話したんや”』と言ってくれる人が多い」

ケアマネジャーという名刺は後から出せばいい。最初から「介護」と謳うと壁ができてしまう。

「相談する、とはライセンスに話しているのではない。人に話をすることなのだと気づかされました」

人が人を呼ぶ 距離感と信頼

常連さんから「主人が退院してくる。自宅で看取りをしたい」という相談があり、自宅改修や医療環境を整えるなどの段取りに奔走した山下さん。

そのご主人は退院してたった2日で亡くなったが、在宅看取りという家族の希望は実現した。

家族はそのことにとても満足し、「山勝ライブラリ」のことを周りの知人などに紹介してくれたという。

「人が人を呼ぶということです。地域の信頼を得ることがいかに重要か」

山下さんは介護に携わり20年以上、いわば「ベテラン」。専門職として経験も積み重ねてきた。

「知識も経験もあるからこそ、つい『してあげたく』なり『与えよう』としてしまう。でも違った。大事なのは、その人や家族が大変だと感じていることをくみ取って提案すること。『しんどい』の見極めです。カフェを始めた当初、(店番をしていることの多い)妻から『口出ししないで』とよく言われました」

カフェの奥が時計店のスペースでもあり相談室でもある。

他人に聞かれたくないことや込み入った話は相談室ですればいい。

必要であれば2階の『山勝ライブラリ』のケアマネにつなげばいい。

「待つことの大切さ。需要を見極め共感すること。“頭でわかる”というのと“心が動く”というのは全く異なります」

僕らは、社会資源をつなぐのが仕事

地域にある団地の住民の高齢化が進んでいる。

「誰かが支えないと衰退まっしぐら。70坪や80坪の大きな住宅に一人で住んでいる人もいれば、狭い団地の住宅で、一日の目標が『転ばないこと』と、ほとんど人に会わずに暮らしている高齢者がいる。住民たちにつながりはない。この場所には人の行き来があるからこそ、様々な情報が集まってきます。カフェをきっかけに、人がつながり合える点にもなればと思っているのです」

すぐそばにある酒屋は宅配も行っているという。

「店主が宅配先の変化に気づいたり、『置かれている牛乳が腐ってる』などと教えてくれることもありました。まちの商店の人たちは“高感度センサー”を持っており、変化に気づくことができる。介護や福祉、空き家問題など、自分たちの専門外で対応できないことは僕らに頼ってもらえればいい。僕らも頼らせてもらっている。お互いに協力しあい、シェアし合えるスタイルを目指しています」

その現れとも言えるのが、時計店のスペースにある「社会資源マップ」だ。

例えば、電球の交換はヘルパーがすることはできないが、近くの電気店であれば電池一つの購入でも電球を替えてくれる。

デイサービスの訪問美容サービスでは制約もあるが、あの散髪店なら送迎付き、デイサービスのカラオケでは存分に歌えないというなら元看護師が営業しているカラオケ喫茶が地域にあり、必要であればバイタルチェックもしてくれるといった具合だ。

少しずつ、そんな情報がマップに記録されている。

このように地域の社会資源を使えば、介護保険の削減にもつながる。

山下さんと社会資源マップ

山下さんの奥さん・信乃さんは聞き上手で、ファンもいるほど。

介護保険外の相談は信乃さんが地域の社会資源のことも踏まえて対応し、そうでない部分は山勝ライブラリにつなぐ。

ケアマネの仕事は残業も多く、業務外の仕事も多いと評されがちだが、山勝ライブラリには残業は基本的にないという。

それは、カフェの運営と山勝ライブラリの仕事が背中合わせであるためだという。

作り始めたログノート

最近始めたという「ログノート」を山下さんが見せてくれた。

常連さんに、他愛ないことでもいい、自由に何か書いてもらうための、それぞれの専用ノートだ。

週一の頻度で訪れる夫婦がいるという。

カフェ周辺は坂道が多く、月に一度の通院に苦労をしている心疾患のある夫。

電動車いすが欲しいという相談があり、要支援であったが例外給付で借りることができたという。

だが、月に一度の通院以外は家にこもりがちの夫婦生活。

電動車いすという“ツール”を提供するだけでなく、“目的”も提案したいと山下さんは考えた。

それはカフェに行くという目的。

夫婦でカフェに行くことで、話題も増え、会話も増える。

そんな夫婦がログノートに、「湯づ茶が美味しかった」といったように何かを記す。これもライブラリになる。

山勝ライブラリ、の由来

「老人がひとり亡くなることは、図書館がひとつ焼失するのと同じ」というケニアの言葉を偶然耳にし、「これだ」と思ったのがきっかけです。知識も経験も人生も積み重ねてきた高齢者はみな「図書館」だと思っています。常連さんからは教えてもらうことばかりです」

カフェの名前を考案したのは信乃さんだ。

FIKAとは、スウェーデンの言葉で、「FIKAしよう」とは「お茶しよう」「おしゃべりしよう」「休息しよう」といった意味を持つ。

時計店の「山勝」とは、山下勝巳の略だろうと山下さんは推測しており「親父としては、時計店を継いでほしかったはず。でも、介護を選んだ。だから会社を『山勝ライブラリ』としたのです」と語る。

FIKA三丁目のショップカードを手掛けたデザイナーがデザインした社会資源マップをよく見てみると、12角形であることに気づく。

時を刻む「12」という数字。

ここは、各々の、深い思いの詰まった場所だった。

向田 奈保

1983年生まれ ライター。武蔵大学社会学部卒。埼玉県出身、現在は香川にて、介護職の夫と3歳の娘と暮らす。 高齢者住宅新聞フリー記者として、介護・福祉・医療分野を長く取材。 地域社会、コミュニティ、多世代、ごちゃまぜ、建築、シェアハウス、まちづくり、オーガニック、食といったキーワードに飛びつき、介護・福祉・医療とはコミュニティであり、まちづくりという観点を持ちながら、フットワーク軽く取材をこなす。 時々、高校野球をテーマに原稿も執筆。

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