何でも応えられる、暮らしの専門家に。 やましなぐらし 太田英樹さん

インサイトハウス太田さん

賃貸・不動産など事業を手掛けるインサイトハウス(京都市山科区)が運営している「やましなぐらし」のサービスは、家事代行、家具の移動・組立て、高齢者、介護に関する困りごと、家庭・職場の人間関係に携わるコーチングセッション、セミナーなど多岐に渡る。

介護事業部長でやましなぐらし担当の太田英樹さんに話を聞いた。

介護業界25年

太田さんは医療法人、社会福祉法人、民間大手介護事業者での勤務経験のほか、個人でのコンサルティング事業経営など、介護業界で25年ほどのキャリアを持つ。

民間の介護事業者で4年半勤めた後独立、老人ホームの施設紹介事業を始めた。

施設紹介ビジネスは、施設運営側から紹介料として報酬を得る形態がほとんどで、本人・家族の意向とは異なる施設を紹介するケースも多々あると言われている。

太田さんは「本人・家族目線で紹介したい」と、本人や家族から紹介料を得て経営していたという。

「それだけで独立経営していくには厳しく、介護保険外サービスも提供していました」

その後、サービス付き高齢者向け住宅が開設、運営が制度化され、サ付き住宅に関する相談が増え、コンサルティング事業が経営のメインになっていったと話す太田さん。

「県外から事業所の経営を丸ごと任せたいという依頼があり、事務所を休業。2年ほど京都を離れ、その事業所の運営に注力していました。経営を黒字化させ、京都へ戻り、コンサル事業をメインに再開しようと考えていたとき、当社がもともと運営していたデイサービスについて(インサイトハウスの)岡田社長から相談があったのです」

暮らしのワンストップサービス

太田さんは岡田社長と面会。

岡田社長の話から“本気で地域貢献を考えている会社”と感銘を受け、太田さん自ら「入社させてください」と直訴。

2016年、インサイトハウスに入社した。

太田さんは「介護で新規事業をやりたいが…」と相談があったとき「儲けたいならやらないのが一番良い」と話すことにしていると言う。

「定員10名ほどの小規模デイサービスなどは特にですが、単体での黒字経営は難しい。介護事業単体で捉えるものではなく、暮らしのワンストップサービスとして関わるほうが良い。やましなぐらしもそのひとつ。人生の節目ごとに関わっていけるようサポートする在り方が良いと思うのです」

“やましなぐらし”は「これをします」といったように、サービス内容をはっきりとは謳っていない。

「これとこれをしますと言うことはそれ以外をしないということ。サービス内容が限定されるということです。できること、できないことは当然ありますが、弊社に相談があったとき『考えてみましょう』と、ひとまず受け入れるスタンスでいるのです」

だからこそ実現した事例が幾つかある。

台風による停電で冷蔵庫が使えなくなってしまったという家があり、新しい冷蔵庫が届くまでの数日間困るといった相談だった。

やましなぐらしではバザー用品回収、リサイクル買取のサービスも行っており、冷蔵庫を保管していた。

「グループで運営しているゲストハウスで使おうとしていたものです。それをお客様に一時お貸しすることで問題は解決。とても喜んでくれました」

留守にするため愛犬の世話をしてほしい、老人ホームに入居している夫婦の観劇の付き添いなど、これまでに応じた依頼はさまざまだ。SNSでの情報発信も積極的に行っているため「ただ話を聞いてほしい」とLGBTの人からの相談もあったという。

 

犬の散歩(保険外)の様子 やましなぐらし

「お客様から『もっと早くやましなぐらしを知っていればよかった』と言ってもらえることも多いのですが、だからこそもっと弊社のサービスを知ってもらう必要があると考えており、会議でも『どう周知してもらうか』が課題となっています」

かつては、介護に携わる人はボランティア精神にあふれる人が多かったが、“サラリーマンヘルパー”が増えていると太田さんは説明する。

「何か困りごとがある高齢者などに直面しても『わたしの仕事ではない』『サービス外』などと関わろうとしないことも目につくようになりました。『社会の役に立てていない』『早く死にたい』と、生きがいを見出せない高齢者が多いのです。高齢者が『生きていてよかった』と感じられる関わりをしたいと思っています」

そんな思いから、太田さんはフィナンシャルプランナーの資格も取得。

心理カウンセリングの勉強をし、コーチングスクールにも通うなどして自己研鑽に励んだ。

セミナーも主宰 正しい“理解”、正しい“方向”へ

「在宅介護とお金の話」といったセミナーを担当するのも太田さんだ。

依頼があれば個人的にも社会福祉協議会などが主催するイベントで話すことがあるという。

セミナーの様子

「地域包括支援センターやケアマネジャーはどこにでもあり、どこにでもいますが、正しい情報を漏れなく伝えているかというとそうではありません」

膝が痛いのでデイサービスを利用したいとなれば、「地域包括支援センターなどで介護保険が使えるかどうか認定を受けてください」などと言われるのが一般的だ。

「そもそも、介護保険の仕組みを理念から説明してくれる人はいません。介護保険の現状や実態を話してくれる人もそうはいないでしょう。介護保険を利用する側も正しい利用の仕方を理解してほしいと考えています。そのため、通常では聞かないこと、介護保険外のサービスについて話をすることが多いのです」

国が進めている地域包括ケアにも疑問を呈ずる太田さん。

「病院ありき、医療ありきの図式になっており、暮らしの場が中心になっていない。やはり医療目線と暮らし(介護)目線とでは話が違うのです。子ども、高齢者と区切って考えサービスを行うと弊害が生まれ、縦割り行政のようになってしまうのです」

インサイトハウスでが行う介護事業がデイサービス単体なのも理由がある。

「居宅もやればいいのに、などとよく言われますし、実際そのほうが収益は出ると思います。ですが、介護保険の枠組みの中でサービスを運営すると制度という枠からはみ出ることができません。できることが限定されます」

会社としても自社の土地で、多世代が集まり、つながることのできるような場をと考えているという。

太田さんの理想は“なんでも応えられる、暮らしの専門家である”ということ。

枠組みのない地域の在り方を目指し、インサイトハウスの、太田さんの挑戦は続く。

 

 

「やましなぐらし」の詳しい情報は 「やましなぐらし」事業者ページ をご覧ください。

向田 奈保

1983年生まれ ライター。武蔵大学社会学部卒。埼玉県出身、現在は香川にて、介護職の夫と3歳の娘と暮らす。 高齢者住宅新聞フリー記者として、介護・福祉・医療分野を長く取材。 地域社会、コミュニティ、多世代、ごちゃまぜ、建築、シェアハウス、まちづくり、オーガニック、食といったキーワードに飛びつき、介護・福祉・医療とはコミュニティであり、まちづくりという観点を持ちながら、フットワーク軽く取材をこなす。 時々、高校野球をテーマに原稿も執筆。

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